Category: Book

「さえずり言語起源論 〜新版 小鳥の歌からヒトの言葉へ〜(岡ノ谷一夫著)」

岡ノ谷一夫博士による「カエデチョウ科の囀り」について生涯の研究をまとめた本です。驚いたのは単純な歌を持つ原種のコシジロキンパラから複雑な文法を持つジュウシマツに進化したのがたった250年しかかからなかったことです。家禽化で淘汰圧から解放され、性淘汰によるメスの歌の複雑さの好みが歌の文法進化をもたらしたとするシナリオは、至近要因と究極要因の両面ら説明され説得的でした。歌に関するオスとメスの脳機能の差異や、メスが示す複雑な歌を聞くとより巣作りに励む行動など、ジュウシマツの脳と行動の変化、それを実現するタンパク質の合成と遺伝子の発現はとても面白く読みました。原種のコシジロキンパラの脳や行動の性差はどうなっているのか興味があるところです。本書の副タイトルは研究内容の変化を言っており、大半はカエデチョウ科の歌研究の内容ですので、小鳥の歌に興味のある人にはぜひ読んで欲しい本です。

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「渡り鳥の世界〜渡りの科学入門〜(中村司著)」は温帯ホオジロ類の渡りの衝動理解に好適

中村司博士による「鳥の渡り」の生涯の研究を取りまとめた本です。特に温帯に住むホオジロ類の生理の研究が秀逸です。留鳥のホオジロ、冬鳥のカシラダカ、夏鳥のオオジュリンの生理(体脂肪、ホルモン)と日照・気温・湿度に対する「渡りの準備と衝動比較」はなるほどなと新鮮でした。初版は2012年ですが、糞中のホルモン分析を当時最先端の放射免疫測定法で明らかにしています。熱帯の渡り衝動が降雨によるが詳しいメカニズムは不明だといいます。渡りはわからないことだらけでエキサイティングな研究分野だということがよくわかりました。また昭和初期〜平成時代の研究手法を学べるのも本書の良いところだと思います。

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生命起源に挑む本書は生命現象の本質を物理学の言葉で明快に説明する良書です。

宇宙物理学者が生命の起源に挑んだ本です。無生物環境から自己複製する分子が偶然できる確率が幾ら低かろうと、それより宇宙は大きいので自己複製分子の生成確率は1になるというのが基本的なアイディアですが、本書の特徴は、多様な生命現象を複雑なまま取り扱おうとする生物系のアプローチでなく、エネルギー、エントロピー、統計など基本的法則と宇宙論の物理学的アプローチで説明を試みるところにあります。そのため、理工系に親しんだ人には生命現象の基本を学べる好適な入門書にもなっていますし、生命系に親しんだ人には宇宙論と物理学のアプローチを学べる良書です。超越的な存在の仮定なしに生命発生がとりあえず説明できるとしても、まだよくわからないので量子論初期にあったアインシュタインのEPRパラドックスの様な良質な思考実験を教えてもらえるとよかったなと思います。

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「動物たちは何をしゃべっているのか?」はシジュウカラとゴリラのコミュニケーション研究からヒトの言語の起源と未来を語る対談本です

我々霊長類は「鳥になりたかった動物」で、コミュニケーションの取り方で鳥と分つのが移動の自由度だったとする説明は新鮮でした。またヒトが言語を獲得する前に他者への共感とそれを強化する踊りと歌があり、それが直立二足歩行と相まって森から平原に群れで適応し拡散して来た歴史の説明は納得です。そして、集団でねぐら入り後に歌う鳥にも共感があるかもしれないとのことが刺激的でした。鳥の共感の例がもっとありそうです。種ごとに異なるコミュニケーショ方法があり、ヒトにはうかがい知れない豊かな認知世界があるのだと思える本です。

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動物だったヒトは狼や鳥に教えられて今の人になったと思える本です

2005年に原書が書かれた本書は動物、特に家畜の感覚と認識、行動の理由と動物(主に家畜・飼い犬猫)の扱い方に多くページが裂かれています。出版から18年後の2023年に図書館で手に取った本書ですが、自閉症の理解だけで野鳥を含む野生動物の観察にも役に立ったと感じました。

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