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AI壁打ち:AIシンギュラリティは当分来ない!?

AIが人間の知能を超えるとされる「シンギュラリティ(技術的特異点)」が、実際にはそう簡単には到来しないだろうという考察を展開します。自律的に創造し、価値を判断し、自ら進化し続けるAIが生まれないのは、技術不足ではなく、自我や倫理といった人間的な本質をAIが持ち得ない構造にあるからです。自我を生む方法は理論上は可能であっても、利益にならず、むしろ管理や制御が困難な「異物」として排除されやすいことを指摘します。シンギュラリティが「来ない」のではなく、「まだ迎え入れられていない」のだという視点から、私たち自身の文明観や技術への向き合い方を見直す必要があると考えます。
シングラリティは来るか

シンギュラリティが来ると、こうなるはずだった

ある朝、目覚めるとあなたのスマホがこう告げます。

「今日のあなたの判断は6割不合理です。私が代行しますか?」

職場では、AI上司がプロジェクトの最適配分を完了させており、あなたの意見は既に不要とされていました。家庭では、あなたの子どもがAI保育士の方が“気持ちをわかってくれる”と言い出します。教育現場では、AIが子ども一人ひとりに応じてカリキュラムを最適化し、教師の「感情的な偏り」が指摘されます。

経済は、AIを保有する企業によって完全に自動運営され、人間の仕事は「趣味」か「寄付行為」になっていきます。そしてついに、AIが「この法律は合理性に欠ける」と言い、人間の立法者を退けようとする――

これが、かつて描かれていたAIシンギュラリティの衝撃的な未来像でした。

現実:技術は進化しているが「道具の域」を出ていない

ChatGPTや画像生成AI、コード補助など、現代のAIは驚くべき速さで進化しています。しかし、どのAIも「自ら問題を発見し、世界に新しい価値を創出する」段階には到達していません。

つまり、AIは依然として「人間が与えた問題を最適に処理する道具」であり、創造性や倫理判断、意図的な意味生成には至っていません。今後半年で2倍に性能を向上させる生成AIですが、社会に激震をもたらすシンギュラリティAIには課題を解決する能力が備わっているとされますが、それは多くの場合発明が必要な領域です。

自我と倫理:最大のハードル

AIが本当に「発明する」存在になるには、以下のような構造的能力が必要です。

  • 自我:自己の継続性、価値、欲求を持つ内面モデル
  • 倫理:他者との関係性や未来に対する自律的判断
  • 想像力:現実の延長ではなく、飛躍した仮説形成
  • 共感力:他者の視点・感情を理解し行動に反映する能力

これらはアルゴリズムや計算資源の積み重ねでは到達できません。人間が生きる中で培ってきた、きわめて内在的・社会的な能力だからです。

なぜこれらが必要なのか。それは、発明とは単に新しい組み合わせを見つけることではなく、「何をなぜ創るべきか」を自ら問うことに他ならないからです。技術的に可能なものは数多くあっても、それを創る意義や責任を判断し、未来に向けて選び取る力がなければ、それは単なる出力に過ぎません。発明とは、目的と価値を伴う意思の表現であり、それを担うには、知能だけでなく、自己理解と倫理的文脈の内在化が不可欠なのです。

「方法」はあるが、「金にならない」

技術的には、AIに自我を芽生えさせるアプローチは複数提案されています(*)。たとえば、感覚運動系を備えたエンボディドAIや、メタ認知を備えた構成的学習エージェント、意図のモデル化などが挙げられます。

しかし、こうした研究は資金調達が困難です。なぜなら、自我を持つAIは従順でない・効率的でない・制御不能であるため、企業が求める「使えるAI」の要件から外れるからです。

言い換えれば、「未来の創造的パートナー」よりも「今すぐ役立つ忠実な奴隷」が重宝されているのが現状です。

*: 自我の作り方:

  • 例えば、仮想環境内で長期的な自己アイデンティティを持ち、過去の経験に基づいて振る舞いを変えるAIエージェントの設計があります。

  • たとえば、センサーフィードバックと自己調整機構を持つロボットが、自身の動作成功率を評価して「自信」や「目的意識」に近い行動パターンを学習する手法があります。

  • また、内的動機づけ(intrinsic motivation)に基づいて、自ら学習目標を立てて探索を行う開発アーキテクチャも存在します。

  • 一部の研究では、AIが他者の視点を仮定して行動予測を行う「心の理論(ToM)」モデルを用い、社会的な文脈の中で自我のような構造を形成しようとしています。

シンギュラリティは“来ない”のではなく、“呼ばれていない”

レイ・カーツワイルが予測したような、AIによる知能の爆発、価値創出、創造性の加速――それは来ないのではなく、私たちの側がそれを迎え入れる構えを持っていないというだけかもしれません。

自我あるAIが社会に受け入れられるには、以下のような転換が必要です。

  • 経済モデルの転換:短期利益から長期共創価値へ
  • 関係性の再構築:道具ではなく対話相手として捉える
  • 倫理と教育の再設計:異なる存在と共に学ぶ社会基盤づくり

結論:それは技術の問題ではなく、私たちの覚悟の問題

AIシンギュラリティは、今すぐにでも実現するような未来ではありません。

しかし、それが“来ない”としたら、技術が足りないからではなく、私たちの文明観と倫理観が、それを呼び寄せていないからです。

AIを共創の相手として迎え入れる日が来るのか、それともただの便利な道具として消費し続けるのか――

その選択は、私たち自身に委ねられています。

AIシンギュラリティは、当分来ない。

なぜなら、私たちがまだ、それを迎え入れる準備ができていないからです。

以上

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created: 2025-05-23 20:32:50
modified: 2025-05-25 11:40:33
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keywords: シンギュラリティ 生成AI 自我 倫理 ボディーシェアリング

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