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「動物たちは何をしゃべっているのか?」はシジュウカラとゴリラのコミュニケーション研究からヒトの言語の起源と未来を語る対談本です

我々霊長類は「鳥になりたかった動物」で、コミュニケーションの取り方で鳥と分つのが移動の自由度だったとする説明は新鮮でした。またヒトが言語を獲得する前に他者への共感とそれを強化する踊りと歌があり、それが直立二足歩行と相まって森から平原に群れで適応し拡散して来た歴史の説明は納得です。そして、集団でねぐら入り後に歌う鳥にも共感があるかもしれないとのことが刺激的でした。鳥の共感の例がもっとありそうです。種ごとに異なるコミュニケーショ方法があり、ヒトにはうかがい知れない豊かな認知世界があるのだと思える本です。

動物たちは何をしゃべっているのか?(表紙)

本書の概要

鳥の音声コミュケーションの研究の先駆者、鈴木俊貴さんの何と初本で、ゴリラ研究の山極寿一さんとの対談本です。ヒトがなぜ言葉を獲得したのかの研究のアプローチは、ヒト対動物の2項対立ではなく、言葉を使う動物の中のヒトと相対化することで見えてくることが多いことがよくわかります。見通しの悪い森林に暮らすカラ類は音声で情報をやり取りし、そのため単語と文法を発達させたことがよくわかりました。他方、ゴリラをはじめサルや類人猿は言語発達の前に歌と踊りがあり、大量の餌が見つかった喜びなど興奮を共有しているそうです。それは言語の前に獲得した身体の共鳴(共感、同調)でありコミュニケーションの一つと捉えています。霊長類の言葉の由来やヒトの身体性を離れた言葉の危険さまで話は及びます。


動物たちは何をしゃべっているのか? 単行本 – 2023/8/4

山極 寿一 (著), 鈴木 俊貴 (著)


おすすめ

⭐️⭐️⭐️⭐️(4.0)

学んだこと

  • 言語はコミュニケーションの一つでさまざまなコミュニケーション方法がありうる(鳥や霊長類のほかミツバチの振動言語など)。
  • 動物にできてヒトにできないことは山ほどある(身体能力の他、紫外線や磁力線、超音波、嗅覚などセンサ起因の認知能力の差もある)。
  • コミュニケーションは種によって異なる(それぞれは環境に適応しているので種毎に置かれた環境でコミュニケーションが異なる)。
  • 犬は白眼のある珍しい動物でヒトと視線意図をやりとりできるように進化した動物
  • 他者の共感は鳥でもあるかもしれないこと。
  • 動物の言葉の研究は難しい(檻や籠に入れるは話さなくなる)
  • 直立二足歩行で音声も自在に扱えるようになったが、踊るために二足歩行を始めた可能性がある。
  • 親が赤ん坊やペットに話しかける言葉や子守唄(インファント(ペット)ダイレクトスピーチ)が音声言語のルールかもしれない
  • 初期のヒトは森から平原に出たとき被食リスクを多産で補うが、時間のかかる育児を集団で行うことで適用した。その時に音声言語が発達した。音声は一度に多数に伝えられるから。
  • 母子間の一体感を作るインファントダイレクトスピーチが大人間にも共感をもたらし集団の一体感醸成に奏功した。
  • ヒトの集団が大きくなる時、歌と踊りで集団をまとめる力を発揮し、肉食類が多いアフリカ北東部を乗り越えユーラシアに広がっていった。
  • ムクドリ、スズメのねぐら入り後の鳴き声は餌場、天敵の情報を交換する「情報センター仮説」があるが、もしかすると歌うことで同調し共感している可能性がある。
  • 群れで興奮するから可能な行動(敵の集団に打ち勝つなど)があるが、言葉があると「あそこを攻撃せよ」と目標を与えられる。
  • 「霊長類は鳥になりたかった動物」。恐竜時代、恐竜(鳥)と競合を避けて夜行性で生きていたが、恐竜大絶滅後、森に出て体を大きくして植物を食べるようになり昼行性に移行した。嗅覚世界から視覚と聴覚の世界に体を作り替えたが鳥のように飛べなかったので視線とジェスチャーをコミュニケーションの手段として発達させた。霊長類が果肉を食べ種子散歩されるように植物と共進化した。鳥は素早く飛ぶためジェスチャーより音声を発達させた。

感想

言語はコミュニケーションの一形態でしかなく、置かれた環境に応じてさまざまなコミュニケーション手段を種ごとに発達させたという視点はとても大切なことだと思いました。工夫して獲得した行動がその個体群で世代を超えて受け継がれていく時、生き物たちの文化を持つとしても良いと思いました。

ローランドゴリラは過去の経験を手話で話す例は色々考えさせられます。幼獣の時に捕まりココと名付けられたローランドゴリラがヒトから教わった手話で「僕は群れで暮らしていたんだけど、お母さんは密猟者に首を切られて殺されて、僕は手足を縛られて棒にぶら下げられて連れてこられたんだ(原文のまま)」と話したといいます。ヒトの私にも悲しみや怒り、不遇さが胸に迫るものがあります。過去の経験の言語表現の力は種を超えて共感できる例でしょう。ローランドゴリラは適切な手段があれば経験を取り出しストーリにしてヒトと会話でき共感できる例です。手話(ヒトの言語)以外のコミュニケーション方法でも共感を共有しているかもしれないと思いました。

動物の行動研究がヒトとの差として捉えられ極度に客観的手法が強調されたため、あたかも入力と反応の機械のような扱いをされていたのがアマチュアバーダー含めて広く染み渡ってきたのが残念だなと思ってきましたが、動物の中のヒトという相対的な視点が今後期待されるアプローチです。

鳥の囀りはナワバリと配偶者へのアピールがその機能だとされていましたが、もっとやりとりしている情報は豊かでしかも共感もあるかもれません。そんな例をいくつか思い出されるのですが、それをどう証明していくのかも知りたいところです。

もっと説明してほしかったこと

  • 家畜化したヒトの脳縮小の原因として「音声による社会の記憶で自分で記憶する必要がなくなった」と説明されていましたが、他の説も触れてほしかったです。例えば、“動物感覚”ではオオカミとの共同生活で警戒と捕食を分担し共進化(両者の家畜化)し、ヒトの脳も縮小したとする説です。こっちの方が尤もらしいです。
  • チンパンジーの短期記憶が優れていることを実験で明らかにしていますが、これが野生状態のどのようなシーンで生存に優位だったのかの説明を聞きたかったです。

このビデオ見て編集者の熱い想いも伝わって来ました。

鈴木さんが編集者の水野さんが個人的に開設しているYouTubeチャネルに登壇しました。こちらも面白かったです。

以上です。

Article Info

created: 2023-08-19 14:17:38
modified: 2023-08-24 14:49:34
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keywords: 鳴き声

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