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映画「イノセント」は姉妹の関係を軸に見るべし

大友克洋「童夢」にインスパイヤされて製作された本作は、ノルウェー産サイキックスリラーですが、自閉症の姉と悪意のある妹の成長物語として見応えがありました。
イノセント

おすすめ

⭐️⭐️⭐️ (3.0/5.0)

後半のサイキックスリラーとしてのストーリ展開は意外性がありませんが、姉妹の成長物語として眺めると味わい深いものがあります。

あらすじ

緑豊かな郊外の団地に引っ越してきた9歳の少女イーダ、自閉症で口のきけない姉のアナが、同じ団地に暮らすベン、アイシャと親しくなる。ベンは手で触れることなく小さな物体を動かせる念動力、アイシャは互いに離れていてもアナと感情、思考を共有できる不思議な能力を秘めていた。夏休み中の4人は大人の目が届かないところで、魔法のようなサイキック・パワーの強度を高めていく。しかし、遊びだった時間は次第にエスカレートし、取り返しのつかない狂気となり<衝撃の夏休み>に姿を変えていく─ 。

オフィシャルサイトより—

大事な冒頭

タイトルバックが鉄琴のメロディーに弦楽器の不協和音が響く中、眠っているソバカスだらけの少年の顔がクローズアップされます。寝ていたようです。だんだんと起き出す寝顔が少女だとわかり、そこが車の中でうめく声も聞こえだします。声の主は多分自閉症の中高生ぐらいの少女で姉なのでしょう。運転する母の目を盗み姉をつねります。痛みを感じたか確認したのですが、反応がありません。痛みを感じない狂ったままの姉と感じたことでしょう。家族が向かう先が森にある集合住宅です。姉妹仲の悪い家族と古い車、暗い空に浮かぶ高層アパート、これから始まる陰湿な事件を予感させるのに成功していると思います。

前半の見どころ

大友克洋の「童夢」にインスパイアされたノルウェー製のサイキックスリラーと謳った広告を見て観ることを決めました。前半のストーリー展開はなかなか刺激的でした。石の飛跡を変えられる少年ベン(サム・アシュラフ)、心を読める少女アイシャ(ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム)、両方を持つ自閉症の姉アナ(アルバ・ブリンスモ・ラームスタ)、なんの超能力も持たない主人公のイーダ(ラーケル・レノーラ・フレットゥム)がちょっとした能力に驚き、関係しあい、彼らの背景が断片的に描かれます。

ベンの心の闇を映す行動とイーダのアナへの痛々しい実験が切ないです。

見どころは姉妹の関係の変化

良かったシーンは、ベンを欄干から突き落としたイーダがベンに反撃され、異世界あるいは幻想の世界に閉じ込められた場面です。視覚と聴覚を奪い取られ別の映像と音を見せられるイーダがすんでの所で現実世界に戻れたのは痛みでした。反撃のために持った割れたガラスを強く握りすぎて血が出て、強く感じた痛みが現実に戻すきっかけでした。これはCLOSEで心と体をつなぐものと描かれたのと本質的に同じです。痛みは異世界からの出口というのが多い描かれ方です。

後半は暴走するベンを止めようとサイキックバトルが静かに進行するのですが、心理戦や戦略はあまりなく、場当たり的で盛り上がりに欠けるなといった印象を持ちました。

でも見どころはイーダとアナの関係を軸に眺めるとこれはいい物語だなと思います。イーダは自閉症のアナを何も感じない人の形をした動物のように最初受け取っていたと思います。そこにアナと心でも会話できるアイシャが現れ、アナの心内をアイシャから聞くうちに肉体的な痛みや感情、言語能力があり、行動するアナを頼るようになります。両親に本当のことを話せないのも、子供の悪意がよく表現されていたと思います。このイーダの姉を見る目が変化していくのがこの物語の救いであり見どころだと思います。

そしてラスト

ラストはベンとの死闘に勝ったイーダとアナの姉妹が家に戻り、そこに母も戻った日常が描かれます。

イーダは、呻き声を上げながら意味のない絵を書くアナに普通に話せるんだよねと確認しようとしますが、呻くばかりです。イーダはそこで失望の表情を見せますが、アナは最後何かを書こうとして映画は終わります。実はアナは自閉症の演技をしているのか、あるいは、別のサイキッカーと霊交信しているかもしれないと思わせ幕引きでした。

その後の二人がどうなるかはわかりませんが、アパートにはサイキックバトルに気づく子供達が多くいて、これからサイキック事件が起こることを予感させます。そんな世界で姉妹はサバイバルしていくのでしょう。

感想

姉が自閉症を持つ妹の物語だとして観ると味わい深い作品だと思いました。何も感じない人の形をした動物と思っていた姉が読心少女の口が内面世界を見出し、姉の力を頼り、力を合わせて敵のベンをやっつけるたことで信頼感マックスになります。その表情の変化は見事でした。

また、自閉症の人の本当の心のうちを知る手段はサイキック以外にあるでしょうか。動物行動学も実験心理学も入力に対する反応を判断の基礎にしているので、痛みや心のうちを表情や言葉にできない人をどう評価できるのか。そんなことも思いました。

以上

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created: 2023-09-25 11:54:09
modified: 2023-09-25 14:48:23
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keywords: 自閉症

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