映画「アノーラ」のラストシーンで一気に彼女の人生が押し寄せてきた（ネタバレあり）

現代のシンデレラストーリはほろ苦い。このブログでは、『アノーラ』のラストシーンについて深掘りし、アノーラの心の葛藤をどのように描いているかを考察します。こういった余韻のある映画はいいなー。

あらすじ

主人公アノーラ（通称アニー）は、ニューヨークでストリップダンサーとして働くロシア系アメリカ人の女性。彼女は職場のクラブでロシア人の御曹司イヴァンと出会い、彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5000ドルで「契約彼女」として過ごすことになります。贅沢な日々を共に楽しんだ二人は、ラスベガスで衝動的に結婚しますが、イヴァンの両親は激しく反対し、結婚を破棄するためにロシアからニューヨークに乗り込んできます。この母親の差金の用心棒も加わり物語はさらに奇想天外な展開を迎えていきます。

特徴

『ANORA アノーラ』は、身分違いの恋愛と社会的テーマを描きながらも、テンポの良い映像と多層的なストーリー展開が特徴です。映画はロマンティック・コメディから始まり、次第にアクションサスペンスやシリアスなドラマへと変化し、中盤は予測不可能な物語です。ショーン・ベイカー監督の特有の映像表現と力強い演出は、観客を引き込む魅力を持ち、ストーリーの展開をスムーズかつ視覚的に楽しませてくれます。アノーラの絶叫は見ものです。終盤は常識的なストーリ展開でしたが、それでもラストシーンはなかなかどうして見応えのあり、余韻のあるものでした。このブログではそこを時系列的に書いてみます（見て一月経って書いているので思い違いがあるかもしれませんがご容赦を）。

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感想

• ラストシーンは余白が素晴らしい、見た直後はよく分からなかったですが、後からじんわり彼女の気持ちの揺れがわかってきました。監督は最後のシーンが撮りたかったんじゃないかなと思えるほど。

• 離婚取り消しが成立した後、用心棒のイゴールに安アパートへ送られるアノーラ。

• キャリーバックを玄関口まで運ぶイゴール

• 車から降りることを躊躇するアノーラ

• 大嫌いだったイゴールを拒む心と、彼の言動から自分を理解してくれているという気づきの葛藤が表情に現れ、車を降りられない

• イゴールから結婚指輪を取り返してきたと渡され更に心が揺れる

• しばし時がながれ、アノーラは運転席の彼の上にまたがり、イゴールの席を倒す

• お返しするものが何もなくて、それは商売道具の自分の体を差し出したのだろうか、彼の股間に手を当てながら性的なダンスを始める

• ことをしようとしたのに、溢れ出す感情で彼の上で突然嗚咽してしまうアノーラ

• それを受け止めアノーラの頭を胸に引き寄せるイゴール

• 一瞬引き寄せられる腕に抗しながらも胸に顔を埋めながら嗚咽し続けるアノーラ。映画はそれで終わる。このイゴールの腕を振り払うアノーラがとてもいい。拒否から受け入れへの体と心の葛藤を見事に演じていたと思いました。

• 嗚咽しながら最後はイゴールの胸に顔を埋めるアノーラの姿から、見ている私の中に彼女の生き方がフラッシュバックしてきた。それは映画では描かれなかったのだが例えばこんなストーリが彼女自身の身に起こったのだろうと想像しました。

  • 「（ここから私の妄想）幸福ではなかった幼少時代、親との確執もしくは他界で、自分一人でサバイバルしなければならなかった１０代、武器はダンス。陽のあたる場所には行けず、手っ取り早く稼げる夜のダンスホール。同類が集まり罵り合いながら仕事を続けなければならない職場。楽しんでいると強がり心に鎧を身につけ、男を手玉に取ってのしあがると決意したものの、ろくでもない男たちに体を預ける日々。這い上がれない。本当は強くないのに、こんな人生望んだんじゃなかったのに、折角掴みかけた富豪の息子との結婚騒動から突き落とされ、用心棒に監禁され、なぜこんなひどい目を見なければならないのか、自分は強くないのに、、、、。」

• 全部の溢れる思いがこの最後の嗚咽に現れているようでした。

よかったシーン

• イヴァンの上半身の胸板の薄さが良かった。過保護で苦労知らず、ゲームばっかりやっていたことがよくわかる。つまり、自分に甘いのだ。

• １週間の契約中、イヴァンの家でのストリップダンスは本物ですわ。あの体の柔らかさと自在に体を操れる筋力は相当訓練しているからできること、単なるセックスワーカーではないとの自負がこのダンスから見て取れました。

• ロシアの家族像が面白いほど出てきました。息子を溺愛する母親、（母）親離れできず、最後は親の事業を継ぐことを承諾せざるを得ないことが最初から分かっていた息子、息子の重大事にも仕事のやりとりなのか携帯を手放せない父親。これがオルガリヒの家族なんだろうな。

• アノーラが母親に投げつける言葉：「（イヴァンは）あんたみたいな母親に復讐するのに一番適したストリップダンサーと結婚したのよ」に大笑いが止まらない父親（ツボにハマるぐらい図星だったのでしょう）。

以上です