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バンドリ考察:なぜ豊川祥子は燈の「孤独の詩」に心を震わせたのか

バンドリ!MyGO!!!!!とAve Mujicaの中心人物、豊川祥子はなぜ燈の「孤独の詩」に心を震わせたのか?母の死、居場所を探す苦悩、そして仲間たちとの出会いを通して、未熟なままでも生きる決意に至るまでを紐解く考察。
死別がもたらす祥子の再生の物語

孤独の詩

自分はここにいない

居場所がないって

言い聞かせているだけ

ここではないどこかに行きたい

思い込んで 慰めている

見つけたくって

下ばかり見てたから

気づかない

つまずいて

ぶつかって

よろめく世界でゆれる

靴紐がまた解けた

皆んなみたいに友達できたけど

皆んなといるのに一人みたいな

皆んなみたいに生きたいのに

人間になりたい

— 高松燈(It’s MyGo!!!!!第3話より)

この言葉に触れた時、豊川祥子(とがわさきこ)の心は大きく震えました。 なぜ彼女は、あれほどまでに強く心を動かされたのでしょうか。 その理由を、彼女が歩んだ時間と行動から、心の変化をたどってみたいと思います。

この記事を書く動機は、MyGO!!!!!のキッカケとなるCRYCHICとAve Mujicaを作った張本人である祥子の生い立ちまで踏み込んだ考察は少ないと感じました。 裕福な家に育ち、本音を言ってはいけないお嬢様の祥子が、なぜ「他人とのずれ」を気にする燈から吐露された心の叫びに感激し、CRYCHICのメンバーに涙しながら「これは(春日影)私たちの歌ですわ」と感情を露わにしたのか。 この疑問を出発点に、彼女の出来事と行動から彼女の心がどう動いたのかを考察していきます。


1)イベント(時間順)

豊川祥子は、歴史ある豊川家に生まれ、幼い頃から一族の期待を背負って育ちました。幼少の頃、秘書に行った島で初華と出会い、毎日を楽しく過ごした思い出があります。その後、名門・月の森女子学園に進学し、周囲からも優等生として一目置かれる存在だったのでしょう。 しかし、中学時代に最愛の母親を短くない闘病の末に失うという大きな喪失を経験します。

中学3年生のある日、月の森で開催された音楽会でMorfonicaのパフォーマンスに出会います。未熟ながらも、自分たちの音楽を必死に届けようとする彼女たちの姿に心を揺さぶられ、バンドを始めようと幼馴染の若葉睦と誓い、仲間探しを始めました。

その途中、歩道橋で落ちてきた花を掴もうと身を乗り出した燈を見かけ、「死のうとしているのではないか」と勘違いして駆け寄り助けました。この出会いをきっかけに、燈の書いた詩に触れ、即興的にで「孤独の詩」に曲をつけます。これが、後のバンドCRYCHIC結成へとつながっていきます。


2)母の死別が与えたもの

母親は、家族や一族の期待とは別に、祥子にとっておそらく無条件に存在を肯定してくれる特別な存在だったのでしょう。 その母を失ったことで、世界が無情であること、そしてどれだけ努力してもどうにもならない不条理な出来事が存在するという現実を痛感したのではないでしょうか。

心に空いた大きな穴は、表面上は達観や忘却で覆い隠したものの、深い部分では傷が癒えることなく残り続けたと考えられます。母の死は、祥子に「与えられた人生」を生きるしかないという、どこか諦めにも似た運命観に、さらに深い絶望と孤独を刻んだのだと思われます。


3)心のありよう

祥子は幼い頃から、豊川家の子として、立派であること、家を背負うことを求められて育ちました。進むべき道はあらかじめ決まっており、自由な選択の余地はほとんどなかったかもしれません。10代前半にして、すでに自らの将来に大きな変化はないと悟り、達観と淡い諦念を抱きながら生きていた可能性があります。

そこに、母親との死別という圧倒的な喪失体験を経て、彼女の心には、それこそ地面が無くなるくらいの衝撃だったはずです。疑いもしなかった「(退屈だけど)安全なレールの上を歩く人生」が揺らぎ、母の死別のショックを引きずりながら、「(母のいない)絶対的な孤独感」と、「本当の私の生き方」を模索したいという願いが芽生え始めたのかもしれません。大きすぎる喪失感の反動で「心は忘却」という防衛手段で心を守ろうとしつつも、深層では燻る思いが消えず、静かに疼き続けたのでしょう。

この心の変化が、中学3年生のときMorfonicaの演奏に心を動かされ、自らバンドを始めようと行動を起こす原動力になったと考えられます。そんな折に燈の「孤独の詩」にであり、歌詞にある「居場所がない、どこかに行きたい」というフレーズは、まさに当時の祥子の心境を映していたと考えられます。 母という絶対的な拠り所を失い、「豊川家の子」だけで無い人生、真に自分自身が求める居場所を、無意識に探し始めていたのではないでしょうか。


4)Morfonicaと燈の歌詞が示した出口

祥子が Morfonica と燈の詞に強く心を動かされたのは、ただ楽曲が美しかったからではなかったでしょう。Morfonica の詞は「悲しみや迷いを抱えたまま、それを翼に変えて進む」というモチーフが一貫しており、

「拭いきれない悲しみがあってもいい やがてそれすら輝く翼になる」

「変われたんだ だから何度でも変われる 輝きは私たちの中にある」

そこに宿る“悲しみごと光へ運ぶ”という世界観が、彼女自身の喪失感と響き合ったからでした。「悲しみも自分の一部として受け入れ、光へと変えていく」という世界観と音楽でそれを表現できるという手法の気づきが、祥子のバンドを作る原動力となったと考えられます。

決定的だったのは、燈が書いた〈孤独の詩〉です。燈は「皆といるのに一人みたいだ」「人間になりたい」と、漠然とした孤立感を正確な言葉に置き換えました。この“もやもやを言語化する力”を最初に評価し、曲まで付けたのが祥子でした。自分の中にも同じ孤独がありながら、言葉にできずにいた彼女は、燈の詞に触れて初めて

「孤独を抱えたままでも誰かとつながりたい」

「未熟でも生きていていい」

という本音を言葉ではっきり自覚できたのでしょう。言語化の才能を持つ燈と、それを瞬時に見抜く感受性を持つ祥子。この二人の出会いが、バンドCRYCHICを始動させる決め手になりました。

そして幼少期に体験した「生への本能的な情熱」——毎日が楽しくてしょうがないーーという感覚は、初華との島での体験に根ざしているのでしょう。そしてこの記憶が、後に「全て忘れさせて」と初華にすがり、Ave Mujicaへの誘いへとつながって行くのだと考えられます。


5)CRYCHICの結成の動機

CRYCHICの結成は、単なる音楽活動ではありませんでした。 祥子にとって、それは「生まれ変わるための手段」だったと考えられます。

家や社会から求められる「完璧な存在」としてではなく、 未熟な自分も、孤独な自分も、そのまま受け入れられる場所を作りたかったのかもしれません。 バンドは、心の奥底に抑え込んできた叫びを解き放つ場所であり、「もう一度、自分の人生を生き直す」ための場だったのでしょう。

さらに、幼い頃に持っていた本能的な生への情熱—— 毎日が楽しくてしょうがなかったあの感覚を、もう一度取り戻すための場所でもあったはずです。

だからこそ祥子は、CRYCHICのメンバーたちの前で、感情を隠すことなく、涙ながらに心の震えを伝えました。 それは、抑え込んできた感情を赦し、さらけ出せる居場所をようやく見つけた、 彼女自身の再生の証だったのだと解釈できます。


6)CRYCHICの祥子への影響

燈が「春日影」で歌ったように、そっと寄り添ってくれる存在がいることで、人は再び生きる力を取り戻すことができます。 CRYCHICの仲間たち、睦・そよ・燈・立希は、それぞれの形で祥子を支え、彼女の心を温める存在になったと考えられます。

CRYCHICは、単なるバンドではありませんでした。 それは、祥子にとって—— 「未熟なままでも生きていい」、「自分の人生を歩んでいい」 と、心から信じさせてくれる、大切な居場所になったのでしょう。

私にとってもCRYCHICは光でしたわ

– 豊川祥子、燈に宛てた手紙より(Ave Mujica12話より)


7)なぜの答え

なぜ豊川祥子は、燈の「人間になりたい(孤独の詩)」に、あれほど心を揺さぶられたのでしょうか。その解釈はこうです。

それは、裕福な家に生まれ、常に「完璧であること」を求められ、 本音を押し殺して生きてきた祥子にとって、 燈の歌詞が、初めて「未熟で、孤独なままでも生きていい」と語りかけてくれたからです。

母の死によって心に深く刻まれた孤独と喪失。 それでもなお、誰かとつながりたい。 未熟なままでも、私は一人の人間として生きたい。 そんな切実な願いを、燈の「孤独の詩」はまっすぐに言葉にしてくれました。

そしてCRYCHICの仲間たちに出会ったことで、 祥子は、初めて本音を隠さず、涙ながらに心の震えを伝えることができたのでしょう。

「これは私たちの歌ですわ」

と。

それは、完璧な仮面を外し、未熟な自分を赦し、 そして—— 「自分の人生を、自分の意志で生きる」 そんな新たな決意を、心に刻んだ瞬間でもあったのでしょう。


Appendix:才能ある少女が待つもの

その後、祥子は、父の一族からの放逐という新たな困難に直面することになります。これで本当に忘却で自分を守るようになるのですが、その物語の考察はまた別の機会に。

才女・祥子は、どこか『Re:ゼロから始める異世界生活』のクルシュ・カルステンを思い起こさせます。 何度も困難に見舞われながらも、気高く、強く歩み続けるお姫様のように。

才能ある女性には、なぜか数多くの試練を与えられ、 それを乗り越えさせたいと願ってしまう—— そんな無意識の期待が、物語のどこかに流れているのかもしれませんね。

以上

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created: 2025-04-27 11:25:39
modified: 2025-04-28 11:07:01
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