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2025年鳥学会公開シンポジュームに参加しました
濱尾氏は、シジュウカラとヤマガラを対象に方言のあるさえずりと種認知の仕組みを明らかにし、鳥の音声コミュニケーションの柔軟さを示しました。日野氏は、群集生態学の核心である種多様性の背景を個性とつながりから解き明かし、混群や生態系全体に広がる間接的な影響網の重要性を語りました。中村氏は、イワヒバリの多夫多妻制から出発し、マダガスカルのオオハシモズ類の多様な繁殖形態を手がかりに進化の仕組みを探りました。綿貫氏は、ウトウの長期モニタリングとバイオロギングを通じ、気候変動に応じた餌資源の変化と繁殖成績の関係を明らかにし、海鳥が生態系変化を映す指標であることを示しました。
※本ブログは備忘録的記録です。
[day3] 公開シンポジウム
鳥の音声コミュニケーション ― さえずりの「方言」と種認知
発表者 濱尾章二(国立科学博物館・名誉研究員)
講演概要
- 鳥類は音声によるコミュニケーションで、配偶やなわばり争いなどの社会交渉を行う。
- 地鳴きには意味があるが囀りには意味がない
- しかしオスのさえずりには地域差(方言)があり、同種認知との関係が疑問視される。
- 南西諸島でシジュウカラとヤマガラを対象に調査。
- シジュウカラはヤマガラがいる地域では、誤認されにくい特徴的なさえずりを発する。
- 両種とも他種が同所的にいる場合、種認知の基準を厳密化していた。
- 音声分析と野外実験から、方言と種認知の関係が明らかになった。
- カラの認知の具合がわかった
- 信号検出理論の分野の一つと査読者に指摘される
- 「それは鳥屋以外にはどう意味があるんや」という先輩の言葉を考えて面白がる
感想:
島に分散した時からどのくらい時間がたって(遺伝子時計)で学習から遺伝に定着されるのかが島で違うのがわかると面白そう
旅先での気づきがきっかけというのが面白い。
群集生態学 ― 個性とつながりから見る多様性!)
発表者 日野輝明(名城大学・元教授)
講演概要
- 群集生態学の核心テーマは「なぜその場所に多くの種が存在するのか」。
- 種の多様性を理解するには、①それぞれの生物の個性、②生きもの同士のつながりを明らかにする必要がある。
- 例:混群をつくるシジュウカラとコガラは外見は似るが、採餌方法・攻撃性・協調性に違いがある。個性は同種内でも異なる。
- 群集研究は鳥類だけでなく、エサの昆虫、環境を形づくる植物、共存する大型動物(例:シカ)との関係も含む。
- それぞれの関係は相互に絡み合い、間接的な影響網をつくりあげる。
- 群集生態学はこの複雑な「共生する世界」に挑む学問であり、「専門家」よりも「何でも屋」型の研究者に向いた領域ともいえる。
- 熱帯の種多様性が高い理由はまだ未解決な問題だが、混群の種間が片利(北海道)でなく共利であることが理由かもしれない
感想
個人的研究史としての紹介として興味深く伺いましたが、世界の研究潮流とそこに与えたインパクトいうような大局的な話も伺ってみたいです。
イワヒバリからマダガスカルの鳥へ
発表者 中村雅彦(上越教育大学・名誉教授)
講演概要
- 研究の出発点は高山帯に生息するイワヒバリ。本種は珍しい多夫多妻の繁殖形態をもち、行動は精子競争の観点から説明できる。
- その後、研究対象はマダガスカル固有のオオハシモズ類へ。
- オオハシモズは一夫一妻・一妻多夫・共同繁殖など多様な繁殖形態を示す。
- 興味は「なぜ1種類がマダガスカルで多様な種に分化し、繁殖形態も多様化したのか」という進化の仕組み。
気候変化への海鳥の応答を長期モニタリングとバイオロギングで明らかにする
発表者 綿貫豊(北海道大学・名誉教授)
講演概要
- 海鳥は生態系変化の指標種。気候変動・海洋熱波・レジームシフトに応じて餌種や繁殖成績が変動する。
- 天売島のウトウでは、
- 1980〜2010年:寒冷期はマイワシで中程度、温暖期はカタクチイワシで高い繁殖成功。
- 2010〜2025年:ホッケやイカナゴを餌とした時期は繁殖成功が低下。
- 短期的な餌種変化は気候レジームの質的変化を示唆。
- 海鳥個体群への影響を見極めるため、長期モニタリングとバイオロギングが不可欠。
以上です。