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マレーシア探鳥記〜AIと本格的に旅した記録〜
「AIと旅をする」ことが当たり前になる直前の、2025年の記録。マレーシアの奥地でeSIMを使い、LLMと対話する。鳥の進化、大陸移動、共進化の謎……。ハルシネーションやAIの固執と格闘した先に待っていたのは、独りでは到達できない「高解像度な世界」でした。
2025年、問いを連れて熱帯雨林へ
ChatGPTが一般市民向けに公開されたのは、2022年11月30日でした。 そこから約2年半後の2025年6月、私はそのAIを「連れ」として、マレーシアの熱帯雨林へ鳥を見に行きました。
2024年5月には、最新のフラッグシップモデルである GPT-4o が登場し、AIは単なる検索装置や文章生成ツールではなく、「対話しながら考える存在」へと質的な変化を遂げつつありました。 この変化が、非日常の極致とも言える海外の自然環境に持ち込まれたとき、世界の見え方はどう変わるのか。 本記録は、その試行錯誤の過程を残したものです。
AIを連れて旅をすることは、将来ごく当たり前の行為になるでしょう。 しかし2025年6月の時点では、それはまだ「少し早い」試みでした。本稿は、アーリーアダプターとしての体験記であり、過渡期の歴史的証言となるでしょう。
きっかけは、いつものように突然でした
この旅のきっかけは単純です。 地元のバードウォッチング仲間から4月頃、「マレーシアに行きませんか」と声をかけられ、私はほとんど即答で参加を決めました。
妻は別行動で、クアラルンプール市内に滞在し、英語の短期留学へ。 私は探鳥会に参加するという、少し変則的な旅程になりました。なお、この渡航には探鳥とは別に OSAT(半導体後工程)調査という目的も含まれ、日程もグループと別行動になりました。本ブログではその件は触れません。 ここで記録したいのは、探鳥会にAIを連れて行ったことで、旅の「分解能」が本質的にどう変化したのか、にあります。
旅先では、問いが止まりません
海外を旅するたび、たくさん疑問が湧きませんか?
- なぜ、空港から深夜に都心アプローチが悪いのかな。
- なぜ、こんなに辛いの?
- なぜ、この国ではUberよりもGrabが圧倒的に便利なのか。
- なぜ、この街では歩道が途中で途切れるのか。
都市を歩いていても、探鳥地で森のカーブを曲がっても、頭の中には次々と「なぜ」が浮かびます。 しかしこれまでの旅では、それらすべてを誰かに投げることはできませんでしたし、仮にガイドに尋ねても、自分が欲しい粒度の答えが返ってくることは稀でした。
「もし、この疑問一つひとつに、その場で応答が返ってきたら── 旅の解像度は、まったく別のものになるのではないか」
その仮説を、今回ははからずも実地で試すことになりました。
AIは「連れ」になり得るのか
私は最近、AIとの会話を「チャット」とは呼ばず、「対話」と呼んでいます。 それは、中身が濃厚で残すべき内容を含んでいると考えるからです。
GPT-4oが登場したとき、「これは本当に賢くなった」と率直に感じました。 少なくとも、思考の補助輪ではなく、思考の相手として成立しうる水準に達した、そう思えたのです。今考えると高揚感があったでしょう(その後、実務レベルの数ヶ月の格闘の幻滅期があったのですがそれは別の話)。
今回は、現地の山奥でも通信できるeSIMをiPhoneに導入し、Wi-Fiルーターすら持たずに常時ネット接続を確保しました。 探鳥会は都市公園から海岸のマングローブ林、中央山地の熱帯雲霧林、自然保護区まで、車で長距離を移動します。 この「移動時間」が、AIとの対話にとって理想的な余地を生んでくれました。
そして、LLM側でチャット・対話のログを自動で保存してくれていることも重要でした。後で取り出せなかったら、この記事は書けなかったでしょう。
壁打ちは、決して順調ではありませんでした
ただし、AIとの対話は、常にスムーズだったわけではありません。 特に苦労したのは、LLMが一度提示した説明や仮説に強く固執し、自説をなかなか修正しない癖でした。 いわば「自己陶酔型」とも言える状態で、対話が前に進まなくなることが何度もありました。これは必然で自分を含む直前の対話の内容を続く言葉の選択に確率的に高める機能が内在しているからです。
そのたびに、問いの立て方を変え、前提を分解し、別の切り口から投げ直す必要がありました。 時間はかかりましたが、その過程を経て初めて、実りのある対話に転じる瞬間が訪れます。
この試行錯誤こそが、2025年時点におけるAIとの旅の現実でした。 AIは万能の案内人ではなく、こちらの問いの組み立て方そのものが、旅の分解能の質を左右していたのです。
「鳥を見た記録」では終わらなかった理由
本探鳥記は、「どこで何の鳥が出たか」を中心にした記録ではありません。 中心にあるのは、見たものから生まれた疑問を、AIと対話しながら掘り下げていった過程です。
その対話の中から自然と立ち現れてきたのは、大陸移動による気候変動、植生の変化、 それに応答して進化してきた鳥や昆虫たちの、気の遠くなるような共進化の歴史でした。幾度もの氷河期を経てもなお連続してきたマレーシア熱帯の長大な時間。 そして、その時間の最前線に、今この瞬間も生きている小鳥たちの姿。
これは、AIなしでは到達できなかった世界観だと感じています。
2025年という時代に立って
もちろん、ハルシネーションの懸念は常にあります。 書かれているすべてが正しいと断言するつもりはありません。 それでも、「大枠として、こういうことが起きてきたのだろう」という手応えは、確かにありました。
渡りをしない熱帯雨林在来の小鳥たち。 一方で、非繁殖期に温帯から大量に渡ってくる小鳥たち。 冬に姿を消す鳥たちは、ここでどのような条件のもとで生き延びているのか。そうした問いが、自然と一つの思考の流れとしてつながっていきました。
本稿は、AIとともに旅をするという試みが、まだ珍しかった時代の記録です。 いずれ当たり前になるであろう未来から振り返ったとき、 ここに書かれた戸惑いや手応えが、何かの手がかりになることを願っています。
ここから先は、その断片を一つずつ辿っていきます。
記事の作り方:対話からブログ記事へ
本ブログシリーズの各記事は、旅先で行ったAIとの対話を基に作成されました。ここでは、その制作プロセスを一般読者の方にもわかりやすく説明します。
ステップ1:対話の記録
旅先では、ChatGPTやGeminiなどのLLM(大規模言語モデル)と、スマートフォンを通じて対話を重ねました。これらの対話は、ブラウザ上で自動的に保存されています。
ステップ2:対話ログのダウンロード
帰国後、Google Chromeブラウザにインストールした拡張機能を使って、保存された対話ログをJSON形式でダウンロードしました。JSONファイルには、以下の情報が含まれています:
- メタ情報:対話が行われた日時、ユーザー名など
- 対話内容:ユーザーの質問と、LLMからの回答が交互に記録されたメッセージのやり取り
ステップ3:LLMによる要約と記事化
ダウンロードしたJSONファイルを、別のLLM(今回はGemini)に読み込ませ、対話の内容を要約し、ブログ記事として整形してもらいました。具体的には、対話の流れを追いながら、重要なポイントを抽出し、読みやすい文章として再構成する作業をLLMに依頼しました。
この方法を選んだ理由
この方法を選んだ理由は、対話の量が膨大だったことと、対話の本質的な流れを保ちながら、読みやすい形に整理したいという要望があったためです。LLMに要約を依頼することで、対話の核心を保ちつつ、記事としての体裁を整えることができました。
読者の方へ
本メイン記事以外の各記事は、この方法で生成されたものです。そのため、機械的な言葉遣いや、LLMの能力を過大評価するような表現が含まれていると感じられるかもしれません。しかし、それもまた、旅から約半年後の2026年1月時点におけるLLMの実力を示す、一つのスナップショットとして捉えていただければと思います。
各記事には、対話の過程で生まれた疑問や発見が、そのままの形で残されています。それが、このブログシリーズの特徴であり、価値でもあると考えています。
全記事リンク集
第1部:旅の準備と始まり
第2部:探鳥の現場で生まれた疑問/
- 熱帯雨林の鳥の体色:LLMとの対話から見えた研究のフロンティア
- ジャングルの知恵:小鳥の混群から遺伝と学習の探求
- LLMと探る!マレーシア・アナツバメの巣の謎
- スパイダーハンターとサンバード:LLMとの対話から見えてくる鳥の進化
- 熱帯雨林の鳥類:LLMとの対話から探る多様性と進化の謎
- 熱帯雨林の生態と進化を紐解く:LLMとの対話から見えてくる自然の戦略
- 熱帯雨林のドラマ:羽化と鳥の捕食劇
- 熱帯雨林と進化を巡る知的な旅:LLMとの対話から見えてくる自然の奥深さ
- マレーシア熱帯雨林探検記:地質から鳥の生態、そして都市との共生へ
第3部:進化の壮大な物語
第4部:マレーシアという場の理解
第5部:東南アジアという視座
第6部:旅の総括と未来
第7部:実用的な情報
以上