toriR blog
映画「アプレンティス:ドナルド・トランプの作り方」は現代アメリカ理解の鍵です
2025年、ドナルド・トランプが再びアメリカ合衆国大統領としてその座に返り咲いた今、彼の行動原理は一層明確になりました。そして、その思考パターンを紐解く上で、映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』は極めて示唆に富む作品です。本作が描くのは、単なるトランプの成り上がり物語ではありません。彼がどのように「アメリカ的成功」の象徴となり、今なお多くの支持を集め続けるのか、その核心に迫るものです。
概要
映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』は、ドナルド・トランプ氏の若き日々から大統領に至るまでの軌跡を描いた作品です。監督はアリ・アッバシ、脚本はガブリエル・シャーマンが手掛けています。トランプ氏の「原点」を解き明かし、彼の本質を浮き彫りにすることを目的としています。
主要なテーマ
- ロイ・コーンの影響: トランプ氏は、悪名高い弁護士ロイ・コーンから「攻撃せよ」「非を認めるな」「勝利を主張し続けろ」という3つのルールを学びました。これが彼のビジネスや政治手法に大きな影響を与えています。 アメリカ社会の反映: 映画は、トランプ氏の行動がアメリカ社会の「成功者の条件」として機能していることを示しています。謝罪を弱さと見なす文化や、情報戦における優位性が描かれています。
- 法と人のジャッジ: アメリカが法治国家ではなく、人がジャッジする社会であることを示唆しています。司法の独立性が失われ、事実よりも「誰が語るか」が重要視される現実が描かれています。
映画の見どころ
- キャストの演技:
- セバスチャン・スタンがトランプ氏を、ジェレミー・ストロングがロイ・コーンを演じ、圧倒的な演技力で観客を魅了します。
- ストーリーの展開:
- トランプ氏の若き日々から大統領に至るまでの過程が、彼の内面に迫る形で描かれています。
感想
トランプの行動原理はどこから来るのか
映画は、若きトランプが如何にして自らのビジネス帝国を築いたのか、その背後にある「思考の型」を追います。特に重要なのは、彼の師とも言える悪名高き弁護士ロイ・コーンとの関係です。
コーンは、マッカーシズム時代に共産主義者狩りを主導した冷徹な弁護士であり、彼の最大の信条は 「決して謝らない」「攻撃こそ最良の防御」 という戦略でした。トランプはこの思想を徹底的に学び、現在の政治手法にも活かしています。事実、彼の大統領としての言動を見ると、批判を受けても決して後退せず、むしろ攻撃を強める姿勢が一貫していることが分かります。
ロイ・コーンの3つのルールが示すトランプの行動原理
映画は、トランプがどのように「成功者」としての地位を築いたかを描きますが、その核心にあるのは、彼の師であり弁護士であった ロイ・コーン(Roy Cohn) の影響です。コーンは、マッカーシズム時代に共産主義者狩りを推進した冷徹な策略家であり、トランプに以下の3つのルールを叩き込みました。
ロイ・コーンの3つのルール(Roy Cohn’s Three Rules)
- 攻撃せよ、攻撃せよ、攻撃せよ Attack! Attack! Attack!
- 非を絶対に認めるな Admit nothing, Deny everything
- 勝利を主張し続けろ Claim victory, Never admit defeat
この3つのルールは、トランプのビジネス、政治活動、そして現在の大統領としての行動原理を説明しています。
「非を認めない」ことへの恐怖
「決して非を認めるな」 というロイ・コーンの教えは、道徳や倫理の観点から見ると恐ろしいものです。しかし、アメリカ社会ではこれが「成功者の条件」として機能してしまいます。この価値観が根付くことで、社会はどのように変質していくのでしょうか?
なぜ「非を認めない」ことが成功につながるのか?
謝罪は敗北を意味する文化
アメリカの政治・ビジネスの世界では、謝罪をすると「弱さ」と見なされます。これは日本的な「謝罪による信頼回復」の概念とは正反対です。
情報戦における優位性
フェイクニュースの時代では、「私は正しい」と言い続けることで、人々の記憶や認識が操作されます。トランプのSNS戦略はこれを利用し、事実そのものをコントロールする ことに成功しています。
「謝らない強さ」がカリスマを生む
トランプの支持者は、彼の一貫した態度に魅力を感じます。「間違いを認めない=リーダーとしてブレない」という構図ができあがっています。
しかし、このルールが社会に広まると、「間違いを認めることができない社会」 になり、責任の所在が曖昧になります。これは法治国家としての機能を揺るがす深刻な問題です。
「真実はなく、法ではなく人がジャッジする」アメリカ
映画はもう一つの恐るべき現実を浮き彫りにします。それは、「アメリカは法治国家ではなく、人がジャッジする社会である」 という事実です。
アメリカは「法ではなく人がジャッジする国」
司法は独立していない
トランプが最高裁判所に保守派判事を任命し、司法の独立性を事実上奪ったことで、裁判所の判決が政治的な色合いを強めました。アメリカでは法が絶対的なルールではなく、権力者の意向あるいは人の弱みへの攻撃で変化する ことが示されたがその端緒がこの映画で取り上げられています。
事実より「誰が語るか」が重要
例えば、同じ内容のニュースでも、トランプが発信すれば「真実」となり、反対派が発信すれば「フェイクニュース」とされます。これは、事実そのものが機能しない社会 を生み出しています。
この状況は、客観的な事実の崩壊を意味し、法の下の平等が機能しない社会へと向かっていると感じました。
「成功者の哲学」はアメリカの現実を映す
別のシーンでは、トランプの成功哲学として 「好きなことをやれ。決して諦めるな。勢い(momentum)を保ち続けるんだ」 という言葉が紹介されています。これは一見すると、一般的なモチベーションの言葉のようですが、彼の人生に照らし合わせると、「勢いを失わなければ、間違いすらも正当化される」 という危険な側面が見えてきます。
これが、現在のアメリカ政治にもそのまま適用されていることを考えると、この映画が描くのは単なる過去ではなく、現在進行形のアメリカ そのものなのだと感じました。
映画を観ることで、トランプという個人の理解を超え、「なぜ彼が支持され続けるのか」 を深く洞察できます。彼の支持基盤は一時的なものではなく、アメリカの歴史と文化に根ざしています。そして、それは今後も続いていく可能性が高いと感じました。
「成功」とは何か:アメリカ的思考パターンの体現
映画が提示するもう一つの重要なテーマは、アメリカが信奉する「成功の方程式」とトランプの完全一致です。アメリカ社会は、個人の努力によって富と権力を得ることを是とする「アメリカンドリーム」を掲げてきました。しかし、トランプはその実現のために 手段を選ばない姿勢 を貫き、その結果、彼こそが「現実のアメリカ」の象徴となりました。
彼の政治スタイルは、政策の整合性や倫理観よりも 「勝つこと」そのものに価値を置く ものであり、これは多くのアメリカ人にとって直感的に理解しやすいです。つまり、トランプが再び大統領になったのは、彼が異常な存在だからではなく、むしろアメリカ社会が本来持っていた 「勝者を崇拝する文化」 を体現しているからなのでしょう。
結論
映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』を観て、ドナルド・トランプ氏を大統領に選んだアメリカ合衆国の人々について考えさせられます。ロイ・コーンのルールが支配する国になる懸念はありますが、同時に半分の人々がカマラ・ハリス氏を選んだことも事実です。この映画は、トランプ氏の行動原理を理解するだけでなく、アメリカ社会の多様性とその未来についても考えるきっかけを与えてくれます。トランプ氏の影響は一時的なものではなく、アメリカの歴史と文化に深く根ざしていることを感じました。現在のアメリカという国の理解に好適な映画でした。
以上
Article Info
created: 2025-02-02 14:30:07
modified: 2025-02-07 18:21:08
views: 59
keywords:
トランプ