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マダガスカルでの音響指数と鳥類の多様性の相関に関する論文紹介(Saskia 2021)
自動録音から生物の多様性をモニタする要求が高まっています。しかしその指標はさまざまあり、どの指標がいいのか合意には至っていないようです。そのため、マダガスカル北東部の熱帯地方で4つの音響指標が7つの環境の生物多様性と比較されました。その結果、意外にも鳥類の多様性を表すために導入された音響複雑性指標(ACI:Acoustic Complexity Index)の成績が悪く、音響多様性指数(ADI:Acoustic Diversity Index )、音響均一性指数(AEI:Acoustic Evenness Index)、音響エントロピー(H:Acoustic Entropy )が有益な指標と判かったと主張しています。しかし音響指数だけでは類似した土地利用タイプを区別できないようです。chatGPTと一緒に読んでみました。論文:
タイトル:Listening to a changing landscape: Acoustic indices reflect bird species richness and plot-scale vegetation structure across different land-use types in north-eastern Madagascar(変化する音風景に傾聴:音響指数は、マダガスカル北東部のさまざまな土地利用タイプにわたる鳥類の豊かさと区画スケールの植生構造を反映します)
著者:Saskia Dröge(ヒルデスハイム大学、独)他
Article in Ecological Indicators · September 2020 DOI: 10.1016/j.ecolind.2020.106929
概要
この研究では、マダガスカル北東部の農業地帯における生物多様性を調べるために、音を使った新しい方法が使われました。科学者たちは、特定の音響指数(音の複雑さや多様性を測る指標)を使って、鳥の種類の豊かさや植物の構造がどのように異なる土地利用タイプ(例えば、原生林や水田など)によって変わるかを分析しました。彼らは、これらの指数が鳥の種類の数と強く関連していることを発見し、特に原生林のような自然豊かな環境で指数が高くなることを示しました。この研究は、音を使って生物多様性を測定することが有効であることを示し、特に遠隔地や熱帯地域の生物多様性を保護するための政策立案に役立つことを明らかにしました。
背景
- 人間の活動による地球の生態系の変化が、前例のないスピードで生物多様性の損失を引き起こしている。
- 過去40年で生物多様性の低下が顕著になり、特に農業の拡大と集約化が主な原因とされている。
- 効果的な保全策と環境管理のためには、地域レベルでの生物多様性の詳細な説明が必要。
- 種の多様性が高い遠隔熱帯地域では、現地調査が時間とコストがかかり、複雑である。
- 環境音響調査は、オープンソースの音響ハードウェアとソフトウェアを利用してコストを削減し、調査の難しさを解決する方法として有望。
目的
- マダガスカル北東部の熱帯農地景観における音響指数を使用して、生物多様性指標としての有効性を調査。
- 7つの主要な土地利用タイプにわたる80のプロットで音響指数がどのように変化するかをテスト。
- 音響指数が生物多様性の信頼できる代替指標として機能するかを検証。
- 音響指数がどのような環境パラメータと関連して変化するかを調査。
研究領域と設計の要約:
- 研究地域: マダガスカル北東部のSAVA地域。気候は熱帯多湿で、年間平均気温は24°C、年間降水量は2220mm。
- 雨季: 11月から4月まで。
- 土地利用タイプ: 7種類を識別。
- 原生林: 低地熱帯雨林を代表。
- 森林断片: 原生林の残骸で、木材採取に使用。
- バニラアグロフォレスト: 森林由来と休閑地由来の2種類。
- 草本休閑地と木本休閑地: 天水陸稲作農の変動栽培サイクルの一部。
- 灌漑水田。
- 土地利用タイプごとの調査区画: 各土地利用タイプにつき10の複製区画(休閑由来のバニラアグロフォレストは20の複製区画)。
- 調査区画の配置: 半径25mの80区画。原生林区画はマロジェジ国立公園内、残りの区画は10の村に位置。
- プロット間の距離: 平均最小距離は719m(SD = 438m)、最小は260m。
2.2. プロットの特徴
- 基底面積と植生密度の評価: 胸高直径が8cm以上のすべての生木の基底面積を計算。
- 植生密度の推定: 非木本植物を含む全体的な植生密度を推定。地上0~3mの植生密度を6つの0.5m層で評価。
- 平均植生密度の計算: 各プロットの平均植生密度を計算。
- 海抜標高の抽出: 数値標高モデルAW3D30を使用して各プロットの海抜標高を取得。
- 森林被覆の計算: プロット周辺250m以内の森林被覆を計算。
2.3. バードポイントカウント
- 実施期間: 2017年10月から12月、2018年8月から12月にプロットごとにポイントカウントを実施。
- 季節変化の偏りを避けるため、2年目はプロットの順序を逆にした。
- ポイントカウントの実施: 各カウントは40分間続き、日の出頃から午前8時15分前まで行われた。
- 鳥種の識別: フィールドガイドとバードライフの命名法に従って行われた。
- 累積鳥種の豊富さの計算: 2017年と2018年のポイント数データを組み合わせて計算。
2.4 音声録音の方法:
- 使用した機器: 自作の自律的なSoloオーディオレコーダー(ホワイトックとクリスティ、2017年)。
- マイクの特徴: 2つの全指向性マイクを装備。
- レコーダーの設置: 各プロットの中心に高さ130cmで設置。
- 録音の期間: 8回以上、各72時間の連続録画。
- 録音の実施時期: 2017年10月から12月、2018年8月から12月。
- 録音の手順: ポイントカウントと同じ時期とサンプリングシーケンスに従って実施。
2.5 音響指数:
- プロット選択: 年間1つの連続記録セクション(24時間、午前12時開始)をランダムに選択。
- 記録セクションの選択基準: スペクトログラムを視覚的に検査し、降水量や人為的ノイズが多い場合は別の24時間セクションを選択。
- 録音時間: 破損した2017年の録音を除外し、合計3,816時間の録音を使用。
- 音響指数の計算: R バージョン3.5.0と複数のサウンドパッケージを使用し、4つの指数(ACI、ADI、AEI、H)を計算。
- 計算設定: 最大周波数12kHz、最小周波数0.2kHz、dBしきい値-40dBを設定し、低周波ノイズを除外。
- インデックス値: 1分ベースで計算し、1,440のインデックス値をプロットごとに得る。
- 最終値の計算: プロットごとの2017年と2018年の記録から24時間全体の中央値を計算。
- 時間間隔ごとの計算: 夜間、夜明けのコーラス、日中の時間帯でそれぞれ計算。
- AEIの逆数表示: 高いAEI値は高均一性を表すため、逆数(1-AEI)を示す。
2.6 統計解析の方法
- 使用したソフトウェア: R バージョン3.5.0。
- 正規分布の確認: シャピロ-ウィルク検定で音響指数の中央値が正規分布しているかを評価。
- 土地利用タイプ間の違い: 非正規分布のデータに基づいてクラスカル-ウォリス検定とペアワイズウィルコクソンランク和検定(ボンフェローニ補正含む)を実施。
- 鳥類種豊富さとの相関: 線形モデルと二次多項式モデルを適用し、最も簡素なモデルを赤池情報量基準(AIC)に基づいて選択。
- 線形混合効果モデル: 毎分のデータに基づいて、土地利用タイプや植生密度などを固定効果として含むモデルを構築。
- モデルの組み合わせ: MuMInパッケージのdredgeDS関数を使用して5つの説明変数の全ての組み合わせ(32モデル)を生成。
- 変数の重要性: AICに基づいてモデルを並べ替え、各固定効果の相対的な重要性をアカイケの重みを合計して計算。
3. 研究結果
- 音響指数の変化: 三つの音響指数(ADI、1-AEI、H)がマダガスカル北東部の7つの土地利用タイプ間で系統的に異なっていた。
- 最高値: これらの音響指数は原生林と森林断片で最も高かった。
- 鳥類種豊富さとの相関: これらの音響指数は鳥類の種の豊富さと強い相関を示した。
- 植生密度との関連: プロットレベルの植生密度が、土地利用タイプ間での音響指数の違いを最もよく説明した。
音響指数の時間的変化
- ADI、1-AEI、および H は時間によって変化するパターンを示した。
- 夜間はすべての土地利用タイプで指数値が高く、日の出後に特に水田と草本休閑地で大幅に減少。
- 木本休閑林、休閑地由来および森林由来のバニラアグロフォレストでは日の出後に緩やかな減少。
- 原生林と森林の断片では一日中高い値を維持。
- ACIは土地利用タイプによる特有のパターンがなかった。
土地利用タイプによる音響指数の違い
- ADI、1-AEI、および H は日中の時間帯に土地利用タイプ間で最も大きな差を示した。
- 原生林ではこれらの指数が最も高く、水田では最も低かった。
- 日中、水田、草本および木本休閑地、およびファルロー由来のバニラアグロフォレストは原生林や森林断片と比較して指数値が低かった。
- ACIは原生林で最も低く、草本休閑林で最も高かった。
音響指数と鳥の種の豊富さの相関
- ADI、1-AEI、および H は鳥の種の豊富さと有意な正の相関を示した。
- 最も強い相関は日中の時間帯に見られ、2次多項式モデルが線形モデルより優れていた。
- ACIは鳥類の種の豊富さと負の相関を示したが、相関は弱かった。
音響指数を決定するプロットの構造パラメータ
- ADI、1-AEI、および H の値の違いを説明するモデルには植生密度と土地利用タイプが含まれていた。
- 基底面積は1-AEIの正の決定因子。
- ACIの最良のモデルには基底面積と土地利用タイプが含まれ、高い基底面積はACI値と負の相関を示した。
4. ディスカッション
- 指数を用いて評価。
- 3つの音響指標が生物多様性の有用な代用指標として機能。
系統的土地利用タイプ間の音響指数の変化
- 7つの土地利用タイプにわたる3つの音響指数の体系的な変化を確認。
- ADI、1-AEI、Hは灌漑稲田で最も低く、生物多様性が低いことを示唆。
- 森林断片と原生林では音響指数が高く、これらの地域の保全の重要性を強調。
ACIの結果とその意味
- 理論的にはACIは生物音強度の変動が大きい生息地で高いはずだが、結果は予想と異なり、他の指数とは逆の傾向を示した。
- ACI値は草本休閑地と水田で最も高く、原生林で最も低かった。
- 灌漑水田では単一の明確な信号が支配的で、原生林では異なる種が重なり合うため、ACI値が低下する可能性がある。
- したがって、ACIは熱帯の農業景観での生物多様性指標としては不適切な可能性がある。
生物多様性の代用としての音響指数
- ADI、1-AEI、および H は鳥類の種の豊かさと相関しており、特に昼間の相関が強い。
- 中国南部、ブラジルのセラード、大西洋熱帯雨林での研究と一致する結果。
- 日中の多項式モデルのサポートは、サウンドスケープが飽和していることを示唆。
- 種が豊富な区画での種の豊富さの損失は、これらの指数に反映されない可能性があり、特定の指数の有効性に制限がある。
- 機械学習や新しいインデックスのバリエーションを含む複数の分析アプローチで制限を克服できる可能性。
ACIの相関関係
- ACIは鳥の種の豊富さと負の弱い相関を示し、マダガスカル北東部での良い代用指標ではないことが示唆される。
- コスタリカの熱帯乾燥林やオーストラリア東部の低木地での有用性は確認されているが、マダガスカルでは異なる結果。
サウンドスケープの多様性と植生構造
- 音風景の多様性を表す音響指数は、プロット固有の植生構造と関連している。
- 植生密度と基底面積は、より高い指数値と正の相関がある。
- 農業景観における植生構造の維持と森林劣化の防止が、サウンドスケープ多様性の保存に重要。
- 自然環境の音風景は鳥、両生類、昆虫などから成り、これらは生息地の音響指紋の一部。
- 生態音響学は、単一の指標分類群に焦点を当てるのではなく、完全なサウンドスケープを考慮することで、土地利用の変化に対応する可能性がある。
生物多様性評価における音響指標の使用の意味
- ADI、1-AEI、H はマダガスカル北東部の異なる土地利用タイプで昼間の音風景に大きな違いを示した。
- 他の研究では夜間のサウンドスケープの多様性が高く、日中は低下すると報告されている。
- 連続記録が必要で、多くの研究は限られたサンプリング方式に依存している。
- 生物多様性評価における音響指標の使用は、分析の難しさと標準プロトコルの欠如により制限されている。
- 音響指数は、特に種が豊富な生息地での微妙な違いを検出するのに適していない可能性がある。
- 一部の音響指数は相関しており、部分的に冗長な情報を提供する。
- 自動分類と機械学習が代替案として考えられるが、高度な知識と大規模なトレーニングデータセットが必要。
バニラアグロフォレストの生物多様性保全への影響
森林由来のバニラアグロフォレストは森林の断片と同様の音響指数値を持ち、森林の維持に貢献する可能性がある。
休閑由来のアグロフォレストは木本休閑地と同様の指数値を持つ。
アグロフォレストの保全価値を評価する際には土地利用の歴史が重要。
バニラアグロフォレストの拡大は、特定の条件下で生物多様性に優しい可能性があるが、さらなる研究が必要。
結論
生物多様性評価ツールとしての自律的録音と音響指数
- 自律的録音と音響指数は、生物多様性保全において時間効率の良い評価ツールとされる。
- 研究は、音響指数と鳥の種の豊富さ、および区画および景観規模の特性との関係を明らかにする。
音響指数の有用性
- 音響多様性指数、音響均一性指数、音響エントロピーが有益な指標と判明。
- 原生林の音響指数値が最も高く、保全の重要性を強調。
- 森林断片も比較的高い指数値を保持。
バニラアグロフォレストの生物多様性への貢献
- バニラアグロフォレストが農業景観における生物多様性の維持に貢献する可能性がある。
音響指数の限界と改善の可能性
- 土地利用タイプ内のサウンドスケープのばらつきが大きく、音響指数だけでは類似した土地利用タイプを区別できない。
- 音響複雑性指数は調査地域では役に立たなかった。
- 機械学習を含む複数の分析アプローチによる方法論的な制限の克服が可能。
- ユーザーフレンドリーな分析パッケージと確固たるガイドラインの開発が、生態音響学の応用と保全への広範な導入を促進する。
音響指数の出典:
Acoustic Complexity Index ACI (Pieretti et al., 2011),
- Pieretti, N., Farina, A., Morri, D., 2011. A new methodology to infer the singing activity ofan avian community. The Acoustic Complexity Index (ACI). Ecol. Ind. 11 (3),868–873. https://doi.org/10.1016/j.ecolind.2010.11.005.
Acoustic Diversity Index ADI (Villanueva-Rivera et al., 2011)
Acoustic Evenness Index AEI (Villanueva-Rivera et al., 2011)
- Villanueva-Rivera, L.J., Pijanowski, B.C., Doucette, J., Pekin, B., 2011. A primer ofacoustic analysis for landscape ecologists. Landscape Ecol 26 (9), 1233–1246.https://doi.org/10.1007/s10980-011-9636-9
Acoustic Entropy H (Sueur et al., 2008).
- Sueur, J., Pavoine, S., Hamerlynck, O., Duvail, S., 2008. Rapid acoustic survey for bio-diversity appraisal. PLoS ONE 3 (12), e4065. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0004065
以上