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日本鳥学会(2024)に参加してきました

今年は東京大学農学部(弥生キャンパス)であった鳥学会参加の備忘録です。今年の学会も日差しが強かった。大会委員長に伺うと参加者は1120人を超え小中高生が216名だったそうです。議論も熱かった。今年も報告が多く口頭発表は3パラレルになってしまい、2/3は聞けない計算です。これまでは2パラレルで講演ごとに移動する人も多かったですが、今年は減った気がする。私は一つの会場に詰めて聴くことにしました。どうしても聞きたいものはweb配信をチラ見しました。中身では今年はGPS系と遺伝解析が目につきました。また音声分析も広がりを見せていたように思います。GPSからわかった渡りのコースと風発の建設予定地が強く重なっているのが気になりました。プライベートでは一年ぶりでお会いできる人たちをお話しできたのが良かったです。もうそろそろテーマ別に募集するのが良いでしょうね。
鳥学会2024予稿表紙
  • date:2024-09-13(F)~09-16(M)
  • 場所:東京大学農学部(弥生キャンパス)

このメモはパソコンで記録をとれたものを中心に備忘録として載せています。ポスター発表も良い発表を幾つも聞きましたが、記録に残せていないです。

1日目(9月13日(金))自由集会:

切っても切れない古生物学と鳥類学〜古生物学者が見ている鳥の世界〜

  • 青塚圭一(立教大/東大総合博)、石川弘樹(東大総合博)、宇野友里花(東大・理)、多田誠之郎(福井県大)
    • 趣旨説明:切っても切れない恐竜と鳥の関係(青塚 圭一)

    • 中生代の鳥類の多様性 〜化石から生態を復元する〜(青塚 圭一)

    • 中生代の鳥類と現在の鳥類は同じ鳥? 〜系統分類で考える鳥類〜(石川 弘樹)

    • 恐竜はどのようにして翼を持ったのか? 〜化石姿勢と発生研究のアプローチ〜(宇野友里花) 5. 恐竜の代謝能力は鳥か?爬虫類か? 〜鼻に隠された生理機能の進化〜(多田誠之郎)

    • 総合討論:結局、鳥は恐竜か?

  • 感想:最初から聞けなかったがめっちゃ面白かった。化石は基本的に骨しか残らないが骨に空いた跡とか、偶然に柔組織(羽)も残ることがあり、そこから古代恐竜を推察する。この推察がまさに推理であり科学であると感じた。特に鼻腔の高い放熱が脳を冷やすことができ、それと相まって恒温性を実現する脳の機能向上が可能になったと理解した。

2日目(9月14日(土))午前:

【B01】巣内育雛期におけるクマタカのDNA食性解析とサンプリング手法の検討

〇一瀬弘道・相馬理央・斎藤史之(いであ(株))、山﨑亨(クマタカ生態研究グループ)
  • クマタカは餌をちぎって持ってくるので餌の種同定は難しい

  • 鈴鹿山脈あたりを調査(6ペア)。

  • そこでDNAでサンプル(6種の方法:ペリット、糞、巣材、巣材綿棒、肛門綿棒…)

  • 巣材に多くのDNAが残っていた(血液、体液が染み込んで残る)。2年前と思われるDNAも残っていた。

  • 糞尿の尿酸にもDNAが残っていた(DNAは消されるとされていた)

  • 巣立ち後に巣材を調べたら繁殖へのインパクトも少なくいい何を食べたのかのサンプル方法

  • 感想:何を食べたのかを巣材の残留DNAを調べるのは簡便で良い方法の提案

【B02】オガサワラノスリ母島個体群の個体群成長率の推定

〇葉山雅広(東北鳥研小笠原)、野中純(オオタカ保護基金)、由井正敏(東北鳥研)
  • 生存率はCormack-Jolly-Sebermodelにより推定し、個体群成長率などは個体群行列モデルにより推定した。また、島外への移出による生存率の過小評価については、感度分析によって個体群成長率への影響を検討した(概要より)。
  • 感想:地道な観察データと高度な分析で個体数の少ない猛禽に適用するのはナイストライだと思った。

【B03】GPS発信機を装着したハヤブサの追跡

〇中島拓也・阿部學・橋本哉子(RaptorJapan)
  • 18kmの範囲で採餌、高所(鉄塔)の利用、2014~2017年ハヤブサ捕獲(GPS発信機装着)
  • 雌雄は血液PCRで判定
  • Argos/GPS-PPT(17g)、4~6回/day送信
  • オスは渡らない。
  • メスは渡るが、7月から始まる越冬期に繁殖地と越冬地(越冬地に最大2ヶ月止まる)を行き来していた。他の猛禽と異なる。4hr/170kmの移動速度。
  • 他の地域て捕獲して調査したい。
  • 感想:GPSで経年で特定の行動圏がわかってメッチャ面白い。オスは渡らないのが面白い。

【B04】奄美大島で越冬するサシバのGPSタグを用いた追跡

〇藤井幹1、東淳樹2、井上剛彦3、遠藤孝一4、出島誠一5、鳥飼久裕6、永井弓子6、葉山政治7、松永聡美1、山﨑敦子3、山﨑匠3、和田のどか3、山﨑亨3(1日本鳥類保護連盟、2岩手大、3ARRCN、4オオタカ保護基金、5日本自然保護協会、6奄美野鳥の会、7日本野鳥の会)
  • leg-loop-harness(翼でなく腰に装着)。木に停まっている時はソーラーが隠れるが飛翔時には露出し充電できた。
  • 奄美の越冬地で11個体に装着
  • 奄美の越冬個体群の繁殖地は東日本の各地に散らばった。渡り開始は3月22日から20日間。
  • 感想:平均飛翔距離(km/hr)の単位を質問されていたが、確かに単位は厳密には速度のことだけど、言いたいことかわかる。時間あたりの距離とつければよかったか。この辺り、単位の厳密さが物理や工学系と生態系とでニュアンスが違うのが興味深いが、厳密になったほうがいいのは言を俟たない。

【B05】ルリカケスの繁殖期の進化

○石田健(横瀬町)、高橋幸裕(上野動物園)、高美喜男(奄美野鳥の会)
  • ルリカケスは1月下旬から始める(他より2ヶ月早い)
  • どんぐりを食べる
  • ハブに被食
  • ヘルパーがいるが演者は見ていない(少ない事例?)
  • ヘビの捕食を避けるから早い繁殖と考えられるが、ドングリも早く実をつけている?
  • 種内托卵もあるかもの指摘
  • 感想:退職後でも自由科学者として自由に研究されている姿が頼もしかった。

【B06】沖縄で越冬する南西諸島固有種アマミヤマシギの繁殖地:遺伝的集団構造からの推定

◯佐藤丞1、鳥飼久裕2、藤井幹3、森さやか1(1酪農大・環境動物、2奄美野鳥の会、3日本鳥類保護連盟)
  • 先行研究にアカヒゲのハプロタイプと越冬地、繁殖地の確認がされている。
  • アマミヤマシギは沖縄北部に渡る
  • 沖縄北部でGPSを3個体に装着、1例回収
  • 遺伝子解析(60サンプル)
  • 遺伝的特徴の類似性から,沖縄島の越冬個体は奄美大島から加計呂麻島にかけての繁殖集団に属することが示唆されたが,より詳細な地域の識別はできなかった。ただし,地理的に近い徳之島や請島とは特徴が明瞭に異なった.(概要より)。
  • 感想:遺伝子で繁殖地を推定できると確かに面白いがまだデータの積み上げが必要か。

【B07】GPS追跡から垣間見えたケリの多様な再営巣行動

○脇坂英弥・脇坂啓子(関西ケリ研究会)
  • ペアは4〜5年ペアを継続している先行研究があるが他方、ペア継続は短いとの報告もあり整合的でない
  • 24年3〜7月に3羽にGPS装直
  • 抱卵失敗から再抱卵までを観察
  • ケリの社交場(集団で歌を歌っている場所)がある。
  • オス一羽は抱卵失敗すると社交場で別のメスと番う
  • 熟練ペアはペア継続するが若い個体はペア解消するのかもしれない。
  • 感想:身近な鳥だが細かく見てみると色々ドラマがあって面白い。高い頻度で耕作で巣が壊されるがなんで人の耕作地にケリは営巣するのだろう。

【B08】年間を通したケリの屋根の利用についての報告

〇小丸奏(興栄C・岐阜大)、藤崎雄大・秋山咲奈・伊藤健吾(岐阜大)
  • 岐阜県羽島市に3羽にGPS装着
  • 誤差10mのGPS
  • 測位頻度を指標
  • 夏季の屋根利用が多かった。水田の耕作で収穫期に屋根頻度が減った。
  • 昼に使っていた。夜は屋根を使っていない
  • 屋根では何もしていない。座っている。休憩に使っている。捕食リスクを下げている(ヒレアシトウネンの論文)。
  • 20箇所の屋根を使っていたが緑化は1箇所で残りは波の形状。
  • 感想:ケリは暑く(熱く)ないのかな。他の場所での観察例や、社交場としての機能はあるかなど質問がいっぱい思いついた。

【B09】「ダチョウの平和」に適応的意義がないなんて簡単に決めていいのか?

〇平岡考(山階鳥研)
  • 思いつきを話す、とスタート。
  • “ostrich-policy”:ダチョウの平和とは、明白な事実を無視することによって、それが存在しないかのように振る舞うことを指す、英語由来の比喩表現、慣用句この言葉は「ダチョウは危機が迫った時に、その大きな身体は晒したまま、頭のみを砂の中に隠して、やり過ごそうとする習性がある」という言説に由来するが、実際にはその習性はない。日本語では「事なかれ主義」や「自己欺瞞」とも訳される。日本のことわざに、似たものとして「頭隠して尻隠さず」がある。これはキジが敵から逃れようと草むらの中に隠れるものの、長い尾が飛び出し、隠れきれていないことに由来する(雉の草隠れ)(wikipediaより)。
  • ズグロカモメの幼鳥は隠れる時「頭隠して尻隠さず」状態が多い印象
  • タシギのハイタカ飛翔時に頭を隠しておばねをあげている。
  • アオシギ、鳥じゃないような雰囲気を出している。
  • 目と頭部を隠しているのは適応的ではないのか?という指摘。
  • Q&A: [Q]頭部を隠すのは不安からの逃避ではないのか?-> [A] 逃げることはしない
  • 感想:面白いアイディアがあれば思いつきでもしゃべれるのは実績のある人だけだろうね。

【B10】短期的な人為的農地湛水の渡り性水鳥に対する生息地創出効果

〇清水孟彦1、先崎理之2、堀隼輔3、末田晃太1、市原晨太郎1、石田隆悟1、吉谷晟1(1北大院、2北大、3(株)ドーコン)
  • 渡りと灌水時期と一致する場合、麦、大豆の畑でも短期間湿地化すると渡り鳥(水鳥・シギチ)の利用があった。
  • 即時的な効果が見られる。安価な方法(多分ひと月なので1万円/haぐらい)。餌生物がいい気に増えているから。
  • 中継地(内陸)の重要(小型シギチドリ)
  • Q&A: [Q]昼夜で利用環境が違うのではないか?夜は乾地を使っている。[A]夜の利用を今後見ていく。
  • 感想:実際に地域や全体として灌水を調整するのは難しいでしょう。自然にそうなる様に制度設計がいいだろう。

【B11】Remote and local threats are associated with population change in Taiwanese migratory water birds

○林大利(Taiwan Biodiversity Research Institute)
  • 東アジア・オーストラリア飛行経路に沿って、一部の国々では渡り水鳥の個体群の動向や脅威が報告。2014年から2021年にかけて、台湾全土と3つのホットスポットで31種の渡り水鳥の個体群動向を全国規模の市民科学データを使用しました。島全体では、2種が大幅に減少し、5種が増加。しかし、個体群には異質性が見られた(概要より)

  • 2015-2010の58%の干潟が台湾では失われた。

  • 宜蘭(台湾東北部)が一番水鳥減少が深刻

  • GBIFでデータが公開されている

  • 感想:台湾の水鳥の状況を聞けるのはとてもよかった。台湾など世界なかんずく東アジアと繋がるとよい。日本の鳥研究ももっと国際的であった欲しい。

【B12】鳥類学の基盤を成す「野帳」の収集事業:塚本洋三氏の野帳を例に

〇北沢宗大1、植村慎吾2、五藤花3、外岡隼4、佐藤桐子5、清水孟彦6、守屋年史2、先崎理之6、角谷拓1(1国環研、2バードリサーチ、3北大院・生命科学、4北大・農、5北大・理、6北大院・環境)
  • 観察記録は調査・研究の基盤
  • 1970年以前のデータにアクセスできない。
  • LAARK(Long-term Avian Archives and Research Knowledgebase)
  • 塚本(50年代のフィールドノート)の例
  • バックアップを最優先する
  • 点と点を繋いで鳥類学に貢献する
  • 感想:フィールドノートは日本中に死蔵されていよう。これに光を当てたのは先見性あり。手書きからの入力とデータの質、メタデータの統一は一筋縄ではいかないだろう。だから挑戦しがいがあると感じる。AI駆使してテキストにしてからが勝負だろうな。
東京大学農学部入り口に設置された案内

昼食:

  • M教授と旧交を温める。現在の学生気質のお話を伺えて楽しかった。

【A16】コムクドリの渡り中継地としての九州―滞在期間と生息範囲―

〇樋口広芳(慶應大・自然科学研教セ)、坂口里美・坂梨仁彦(日本野鳥の会熊本)、福島英樹(宮崎野生動物研)、小池重人(日本野鳥の会新潟)
  • 越冬期、多く九州にいた
  • 5~6万の群翔(9月熊本)
  • 熊本には9月の下旬にピーク、7月の下旬〜8月上旬から来ている。観察とGEOロケータで観察されている。
  • 全渡り日数の4〜7割を九州に滞在(中継地として重要)
  • しかし、群れが九州の何処で採餌しているか観察がなされていないが候補はチシャノキの身を食べている。
  • コムクドリは国内繁殖とされているがeBirdでは繁殖記録が朝鮮半島ロシア沿海州で記録があるが数はわからない。
  • ムクドリが混じることがあるが数は多くない。人為的追い払いは多い
  • 感想:ロガーと観察のデータの整合性が取れたのはよかった。コムクドリは謎の多い渡り鳥である。

【A17】盛岡市におけるコムクドリ及びムクドリの繁殖場所の比較と選好要因の分析

〇大泉龍太郎・池田小春・滝川あかり(岩手大院)、山内貴義(岩手大・農)
  • ムクドリと同所的のところもある。争っていることがあるのではないか。
  • 営巣環境の選考要因
  • コムクドリ:ムクドリ=51:47巣を見つけた
  • コムクドリの方が耕作地では不利だが、市街地ではムクドリより営巣環境を開拓していた。
  • 感想:同所的な種間競争は面白いがどこに営巣するのかの個体の事情を説明できる理屈が整理されると面白いだろう。

【A18】国内外来昆虫の侵入によりスダジイが実らなくなった三宅島でのカラ類2種への影響

〇藤田薫(東邦大・理/バードリサーチ)、藤田剛(東大・農)
  • スダジイタマバエ(国内外来種)でスダジイの実がならない
  • オーストンヤマガラの冬季に50%が依存(1975,76、樋口)
  • 2000年の噴火で半数になったが戻っていない。
  • つがい密度数を2015年と2023,2024年と比較し,スダジイ林を含むコースでのみ,ヤマガラとシジュウカラ両種の減少が確認された。
  • 感想:目の付け所がいい。ヤマガラとシジュウカラの両方が減ったのは意外だったのだろうが、理由に迫るのはなかなか時間と努力が必要だ。

【A19】シジュウカラはジェスチャーを使う―翼をパタパタ「お先にどうぞ」―

◯鈴木俊貴・杉田典正(東大・先端研)
  • メスがオスと同時に餌運びするとメスがパタパタしてオスが先に入った。
  • 世界初の鳥類のジェスチャーを発見
  • オスの育雛能力を測っている?と解釈している
  • Q&A: 進化か?文化か?→先天的だと思う
  • 感想:数年前の黒田賞の公演スタイルと同じだった。内容はメディア報道通りで、講演では査読でどこが論点だったかなど科学的深掘りを期待したが成果アピールの方が印象に残った。ちょっと残念なスタンス。

【C19】鳥類の窓ガラス衝突防止に効果的なマーキングの検討

黒部愛1、〇喜多村珠妃2、岡久雄二2、根本宗一郎1(1人環大・人環、2人環大・環境)
  • (オンラインで裏番で見ていた)
  • 縦縞が効果が高い。樹々の衝突を避けるためではないか。
  • 感想:面白い。言われてみれば林立する間を飛翔する鳥には縦縞がよく反応するのは納得。

【A20】リュウキュウコノハズクの行動圏の性差は悪天候時に大きくなる?!

〇金杉尚紀1、熊谷隼1、江指万里1、澤田明2、高木昌興1(1北大・院理、2早大・人科)
  • 2020 年、2021 年、2023 年に計 55 個体 (オス 28 個体、メス 27 個体) を捕獲し、GPS ロガーを 装着
  • 482 個の行動で、気象条件・個体の形態形質・性別・気象条件との交互作用を一般化線形混合モデルで解析
  • 降雨・強風で行動圏は狭まった
  • 跗蹠長が長いほど行動圏は狭く、翼長が長いほど行動圏は広い。性別は行動圏に影響しなかったが、風速が強いとメスの狭まるが、オスの行動圏は変わらない。
  • 悪い環境(気象)では選択圧が強く働く
  • 感想:悪天候の選択圧の調査は難しかろうと思う。GPSの新たな使い方だと思った。

【B21】飼育下日本産ライチョウの産卵スケジュールおよび産卵間隔と体重の関係

〇金原弘武(岐阜大・連合農学)、楠田哲士(岐阜大・応用生物)、秋葉由紀(富山市ファミリーパーク)、栗林勇太(市立大町山岳博)、高橋幸裕・宮田桂子(恩賜上野動物園)、佐藤哲也・原藤芽衣・荒川友紀(那須どうぶつ王国)、白石利郎・石井裕之(横浜市繁殖センター)、田村直也(長野市茶臼山動物園)、小山将大・田島一仁(いしかわ動物園)
  • 国産ライチョウはEX1B
  • 産卵のパターン、何時に産むのか?
  • 照明OFFの2時間後にLH分泌応答可能時間、排卵時間、24+α時間に産卵
  • 産卵間隔、体重の関係
  • 動物園の飼育ライチョウを調査(スバーバルライチョウ(白夜を経験)も含む)
  • 卵管に28.5時間ある
  • 卵胞の発達していると早い産卵間隔が短い
  • 感想:産卵の時間や時期など考えたこともなかったが確しかに基本的事項で保護や人工繁殖には必要な知識

【B22】千島列島の剥製標本を用いた、日本と大陸のライチョウ集団の遺伝的関係の検討

〇笠原里恵(信大・理)、西海功(科博)、齋藤武馬(山階鳥研)
  • 北極地域に31亜種ある
  • 日本のは南限個体群
  • 剥製を利用し脚の裏の組織から採取(塩基配列で300例読めた)
  • 千島の集団は日本の先祖種
  • 疑問:千島の島々でハプロタイプが違うのはなぜ?
  • 最小氷河期はサハリンと繋がっていた。なぜ千島?
  • 感想:ライチョウの由来を剥製からアプローチするのは面白い。

【B23】出水平野に飛来するナベヅルとクロヅルの種間交雑に関する遺伝学的研究

〇江㟢真南1、所崎香織2、原口優子2、堀昌伸2、奥谷公亮1、小澤真1(1鹿大獣医、2鹿児島県ツル保護会)
  • 毎年15000羽
  • ナベヅルが最多。アムール川流域以北で繁殖。全世界で17000羽。
  • EXII
  • 8割が出水平野に来る。
  • クロヅル40万羽で世界的普通種
  • 交雑は実際どのくらいかを遺伝学的に決定(ミトコンドリアDNAのCO1領域)
  • 2016~2024の627羽の個体
  • Q&Aでナベクロヅルは雄しか見つかっていない。
  • 感想:15000羽をカウントするのも大変だろうな。越冬期の分散も真剣に取り組む課題なのだろう。

【B24】東日本に定着した外来鳥類ガビチョウの分子系統および集団遺伝解析

○田谷昌仁1、内田博2、仲村昇3、油田照秋3、細谷淳2、竹田山原楽1、小田谷嘉弥4、宮原克久2、伊藤舜5、平野尚浩6、千葉聡1(1東北大、2鳥類標識協会、3山階鳥研、4千葉中央博、5静岡大、6琉球大)
  • グリーンアノール(小笠原)は後ろ足が伸び新環境に適用をした例
  • ガビチョウは東北と関東は別の侵入で別の集団として遺伝的に保存されていた。しかし、千葉県で交雑が起きている可能性がある。
  • 東北個体群&関東方は77万年前に別れた
  • 中国でのミトコンドリの分布と整合的でない
  • 感想:遺伝で外来の侵入タイミングを測れるなら面白い。

【B25】オオムシクイは北海道のどこで繁殖するのか?

○齋藤武馬(山階鳥研)
  • コムシクイ、オオムシクイ、メボソムシクイは220万年から260万年前に分化(先行研究)
  • 知床半島とその周辺の標高900〜1500mにしかいなかった
  • 推定個体数は1000羽以下
  • メボソムシクイは北海道道南にいない。
  • 感想:大変な努力量。日本の個体群が人知れず絶滅しなければ良いのだが。

【B26】メボソムシクイの囀りの地理的分布

中村進(日本野鳥の会和歌山・大阪支部)
  • 3拍の囀りチョチョチョ、オオムシクイはチョチョリ チョチョリ、メボソムシクイ、は4拍でゼニトリゼニトリと2拍目が高い。
  • 大峰山系は3拍。
  • 白駒池は3拍だった。乗鞍は5拍だった。
  • SNS・放送でしらべた。7月以降のデータのみを採取した。
  • 4拍:上信越、白山。越冬地ではどうなっているか知りたいとのこと。
  • 感想:方言を調べるのはおもろい。お友達になろう。

W13 風力発電施設が渡り鳥等に与える影響と累積的影響について考える

浦達也 1、澤祐介 2、風間健太郎 3、中原亨 4、葉山政治 1(1 日本野鳥の会、2 山階鳥研、3 早大、4 北九州市博)
  • 風発には“鳥衝突”の他、“障壁影響”や“生息地の放棄や移動”がある。風力発電施設が渡り鳥に与える影響と累積的影響について識者と議論した。
  • 風発稼働後も健全な運用が必要でモニタリングによる、風車あるなしと時間変化の4つのデータの比較が必要と指摘があった。
  • 渡り鳥に国境はなく日本は重要な東アシアオーストラリアフライウエイに位置し重要な責務があると確認された。
  • 感想:環境アセスをしてもつくりぱなしの現況はなんとかならないものか。

3日目(9月15日(日))

【B27】静岡大学周辺におけるカラス2種の採餌生態調査

〇江島悠音・竹内浩昭(静岡大・院総科・生物)
  • ペリット(目視&顕微鏡)は消化されやすい動物性は残りにくい(ミミズ、蛾など)
  • 糞のメタバーコーディングと比較するとペリットに残りにくいスモモ、ミミズ、蛾、ハトやノネコの肉があることがわかった。
  • 感想:頭が欠けてペリットの収集補法を聞けなかったが、種間比較はできなかったとQ&Aで言っていた。巣の下でペリットを拾うのはいい方法だろう。

【B28】市街地を集団ねぐらとするカラスは夜間に移動することがある

○塚原直樹・永田健・長谷山聡也(CrowLab)
  • 街のカラスは照明の変化で移動することがある。照明が消えると増えることがあった。
  • 森の中の集団塒から明け方、近くで集合することがある。
  • 考察でカラスが他のカラスを振り切りたいと思っていることもあるかも。
  • 感想:気づきも観察して発表すると会場から意見をもらえていいね。(高病原性鳥インフルの観点で集団ねぐらを取る鳥の基礎行動は重要とシンポで教えてもらう)

【B29】カレドニアガラスによる”観念的”食品加工

○田中啓太(WMO)、矢野晴隆(ハルシオネ)、佐藤望(くりべえす)、JörnTheuerkauf(ポーランド科学アカデミー)
  • カレドニアガラス:2工程の加工(陸生巻き貝を落として、穴を開けて穴から小枝を突き刺して餌を取る。
  • 手段の階層化
  • 感想:どういうモチベーションでこれに取り組んだのか説明がなかったのですが、NHKの映像があったので行動の再解釈なのかもしれない。

【B30】クロヤマアリを利用した鳥類の蟻浴行動について

○大河原恭祐(金沢大・生命理工)、秋野順治(京都工繊大・応用生物)
  • クサアリの巣で定点観察:カケス、ホオジロ、クロツグミ、ハシブトガラス、イカル
  • 半開きで蟻浴
  • 揮発性の蟻酸のデンドロラシンを身に纏う
  • 吸血性の昆虫(そうしもくこんちゅう)除去に効果的
  • クロヤマアリに蟻浴する鳥を観察
  • 蟻酸を浴びるだけでなく日光浴をしている。
  • クサアリの蟻浴は気温と湿度の高い月に多いがヤマアリは相関がなく理由が違うのではないか
  • ツキノワグマによる蟻の捕食ご3日以内に日光浴するものが多い
  • 感想:生物種間の相互作用を地道に検証するのも相当ワクワクするテーマです。アリの種類の差で蟻浴の意味合いが違うとしたら面白い。

【B31】野鳥の鳴き声自動検出AIの開発と沖縄および熊本の野鳥の検出

森下功啓(熊本高専)
  • 鳥55種、虫27、その他22種の自動分類が可能

  • 画像数:教師データ14万枚、VGG16

  • BirdNET V2024と比較、ヤンバルクイナ、キジバト、アカヒゲ

  • 質問:[Q] 例えばNFCの様な音圧の弱いもの、短い地鳴きの検出はどうか?

    →[A]音圧が低くでも大丈夫だと思うが、(地鳴きは)学習する必要があるのでやってみないとわからない。

  • 感想:アルゴリズムも対象や機器によって向き不向きもあると思うので、エッジで処理できるNFC(Nocturnal Flight Call)に適用できること期待です(今の私のテーマ)。

【B33】厳冬期の亜高山帯上部の鳥類群集構造

○飯島大智(東京都立大)、小林篤(環境省信越事務所)
  • 乗鞍岳(3236m)で冬季に山岳調査
  • 過去データがないので比較が難しい
  • 感想:なかなか実施が厳しい調査。

【B34】マツ枯れ被害木伐採に 伴う新潟市海岸林の鳥類群集 構造の変化

三上花
  • 新潟市関海岸林西海岸公園
  • クロマツのほかに常緑広葉樹が侵入定着植生進行
  • 松を切ることで網にかかる小鳥の種数の11年間の変化を見た
  • 藪が好きな鳥も減っていた。
  • 感想:いっぱいデータがあって15分では言い切れなかった感がある。当然の変化以外の驚きが何処だったか知りたかった。

【B35】本州中央部における主に砂浜に生息する鳥類の分布特性について

武田恵世(日本野鳥の会三重)
  • シロチドリ 10箇所/500調査地(越冬、繁殖)
  • コチドリ  10箇所/500調査地(繁殖)
  • イソシギ  10箇所/500調査地(越冬繁殖)
  • コロナで人が入っていなかった場所。
  • シロチ、コチはほどほど広くてほどほど人が毎日利用する砂浜。
  • シロチ、コチはヒトの威を借りている可能性がある。イタチ、タヌキ、ネコが捕食者の可能性。
  • 感想:結果は面白い視点。しかし490調査地を調べるのはモチベーションが保てるのかな〜。

【B36】京都府南部の伐採跡地・茶畑に出現する鳥類:越冬 期

○中津弘(温帯文化景観調査研 究所)
  • 2023 年 11 月から 2024 年 2 月 にかけて毎月全プロットを1回ずつ訪問し、1 回 20 分間の観察で出現種を記録した(猛禽類とモズでは林 縁やプロット内の高木・人工物の止まりも含めた)。
  • 出現種は、伐採跡地で、ハイタカ、カケス、ヤマガラ、シ ジュウカラ、ヒヨドリ、ウグイス、エナガ、メジロ、ミソサザイ、シロハラ、ルリビタキ、ジョウビタキ、カヤクグリ、 ビンズイ、アトリ、ベニマシコ、マヒワ、ホオジロ、ミヤマホオジロ、アオジ、茶畑で、モズ、ウグイス、メジロ、ミソ サザイ、シロハラ、ジョウビタキ、ホオジロ、アオジであった。
  • 茶畑(単一植生)を伐採すると冬鳥の多様性が増加していた。
  • カヤクグリは伐採跡地を好んでいる。
  • 感想:ベン図の見せ方が面白かったな。茶畑、伐採地、樹林地の3つの円の包含関係がわかりやすかった。

【B37】熱帯林における森林火 災が鳥類相に与える影響:マダガスカルの事例

〇惣田彩可(京大・理)、大河龍 之介(京大・アフリカ研)
  • 昆虫食で樹上営巣種は火災で採餌営巣空間が失われた
  • ムナジロクイナモドキも減少→絶滅危惧種に脅威
  • 火災跡地で増加する種もあり。樹上営巣種も増えていたが採餌で利用しているだけかも
  • 感想:京大には何十年も長期間研究があるだろうから自分で取ったデータだけでなくそれらのデータと組み合わせで分析するともっと説得的だろう。

黒田賞受賞記念講演要旨:鳥類生態学で拓く鳥インフルエンザ研究

森口紗千子(日本獣医生命科学大学 獣医学部)
  • 鳥類学の枠に収まらない積極的な活動を行い、なおかつ鳥類学の果た すべき社会的責任を担っている研究者である。
  • 感想:色々な出会いと頑張りでの受賞だと思いました。「上司に恵まれた」と敬意を具体的に示すのはなかなかできないことと思う。いい話やね。若い人へのメッセージも良かった。ちょっとウルっと感動してしまった。

ポスターを回って

感想:ポスター発表は口頭発表と違ってperson-to-personで話を聞けるのがいい。でも、その分一件の時間が長くなって多くは聞けないという欠点もあります。また会場の関係で熱気に包まれ中々お目当ての話を聞くことができないことも多いです。話を聞けた発表とポスターを読んだ感想です。

P5-15 深層学習による長時間録音からの高精度な鳥類音声の自動抽出(水村:富士山研、他)
  • 長時間音源から鳥の鳴き声の開始時刻と終了時間を抽出することを目的にセマンティックセグメンテーション技術を適用した発表
  • 10回の訓練で90%正答率に上がった
  • 感想:自動抽出の前に切り出しの自動化だけでも十分ニーズはあるのだろうと思う。DeepLabv3+を使ったとか。YOLOを使わなかったのは音声はバウンディングボックスでなく、領域を抽出したいがためとのこと(立ち話で伺った)。
P6-07 日本の高速道路 SA/PA におけるツバメの繁殖分布とその特徴 (天野孝保:長大)
  • ツバメの高速道路の SA/PAの利用を調査。
  • 北海道士別剣淵ICから鹿児島県鹿児島ICまでの高速道路区間において、可能な限り全ての SA/PA に停車し、ツバメの営巣数などを記録
  • 営巣北限は宮城県柴田郡の菅生 PA(下り側)、南限は熊本県八代郡の宮原 SA (下り側)
  • 営巣数は PA よりも SA の方が多かった。SA/PA は市街地に近接するように設置のため繁殖場所として利用しやすいのかも。
  • 感想:トイレ数との相関を示していたのが秀逸。なかなか目の付け所と努力量に敬意をしめします。
P6-30 トモエガモ全国調査 2024
〇櫻井佳明(加賀市鴨池観察館)、神山和夫(バードリサーチ)
  • 2022 年度にトモエガモ全国調査し最大個体数が 167,757 羽だった.
  • 2023 年度289 地点から 1280 件のデータが集まった.月ごとの個体数は 10 月 63 羽,11 月 65,875 羽,12 月 157,096 羽,1 月 329,560 羽,2 月 139,057 羽,3 月 4,283 羽と なった.
  • 感想:市民科学のアプローチで全国調査できるテーマです。それにしても印旛沼の個体変動は何を意味するんですかね。

公開シンポジューム(9月16日)

1.趣旨説明:野生鳥類と高病原性鳥インフルエンザ

   森口紗千子(日本獣医生命科学大)、牛根奈々(山口大)

2.H5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの基礎

   迫田義博(北大)
  • 感想:海獣に海鳥から広がっているんだとか。人ワクチンを希少鳥の保護の観点に適用する取り組みがあるんだ。

3.野生動物の鶏舎内侵入と高病原性鳥インフルエンザウイルス伝播の可能性

   山口剛士(鳥取大)
  • 鶏舎には卵と糞尿、飼料、堆肥場の出入り口があるのでフィールドカメラで見ると哺乳類(ネコ、イタチ、アナグマ、ネズミなど)、鳥類(スズメ、カラス類)が多く出入りが写っているそうです。
  • 感想:卵安いから鶏舎はギリギリの経営だと対策が余分なコストに感じてしまうかも。

4.野生鳥類の生態から考える高病原性鳥インフルエンザ対策

   森口紗千子(日本獣医生命科学大)
  • 鶏舎の周りの耕作地を乾田(耕起)をして冬水田んぼは傾斜から離れたところでやるなどのゾーニングするのがいいとのこと。
  • 感想:学会の黒田賞公演と内容は被っているが、

5.希少鳥類のホットスポット!北海道根室市で発生した高病原性鳥インフルエンザ

   ~鳥たちのために地域でできることは?~

   外山雅大(根室市歴史と自然の資料館)、古南幸弘(日本野鳥の会)、工藤知美(EnVision環境保全事務所)
  • 根室でカラスの塒近くでHPAIが発生した。希少種鳥類の多いリスクは観光餌付けでこれを調査結果を元に環境省・自治体・事業者に中止を要請するも、徹底はできなかった。法制度の整備が必要。
  • そもそも川をサケが上流まで遡上できる様にもどしたい。
  • 感想:餌付け問題など自然との関わりの課題がわかった。それとカラスの行動件、塒がどこかの日々の観察がまとめられるのが重要なんだろう。市民科学で集団発生のポテンシャルのあるカラスのねぐらなど調べていたのは、(続けていけば)住民の自分ごとにつながっていくでしょう。何かお手伝いできれば良いのですが。

6.鹿児島県出水市でツル類に発生した高病原性鳥インフルエンザの状況報告

   原口優子(出水市ツル博物館クレインパークいずみ)
  • HPAIの死亡数:ナベヅル>マナヅル、成鳥>幼鳥
  • R4の特徴;ねぐらから遠い場所で死亡した鶴から陽性判定が出た
  • 予防:給餌の分散、ねぐらの水管理、居残りヅルの増加(昨年度17羽、今年7羽:障害鳥でなく健康そう)
  • 人・養鶏への感染リスク(広い農耕地での死体回収で防疫対策の確立、メガネが曇る、息ができない、透湿性がないので蒸れる、動きづらい)
  • 感想:現場で対応されておられる人の苦労が偲ばれます。広範囲の監視も大変そう。

総合討論

  • 集団コロニーやねぐらを取る鳥のリスクと農水省の取り組み
  • 日本はツルをお預かりしているという意識が重要と指定。全体を食害を減らすための人工餌付けの問題定義と20年来指摘された集団越冬地の感染症の未対策のツケが来ているという樋口さんの意見があった。
  • 去年は韓国と出水とナベヅルが2度行き来した。それがHPAIの死亡増減とリンクしていた。
  • 感染予報ができるように北米欧州でなされている鳥の渡り予報について東アジアでの必要性が指摘された。
  • 常態化が怖い。非繁殖カラスの定住化がリスクがある。懸念として生ゴミ処理?が餌資源になっている場所でHPAIが複数発生していること(野鳥の会:金井さん)。
  • 国際交流、異分野交流(野鳥、獣医、感染症など)がますます必要(樋口さん)
  • 感想:樋口先生のきちんと公の場で意見を言えるスタンスは尊敬できます。牛根奈々(山口大学)のサポートが光っていたな。次代を担う人なんだろう。野鳥観察は気楽な趣味だと思っていたら、人獣共通感染の最前線に立っていたという気づきを与えてくれたシンポジューム企画に感謝。
学会に合わせて発売された鳥類目録の第8版

以上です

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created: 2024-09-14 08:52:23
modified: 2025-02-07 18:21:33
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